岩融



「主よ!背を流しに来たぞ!」
「え。」



本丸のお風呂場は大人数用に作られていて、銭湯のような広さになっている。大人数がチマチマ一人ずつ入っていたら時間がないからという効率重視で作られているのだが、私だけは別だ。主だからとかいう理由ではなく、性別の問題で、だ。私がお風呂に入る時は立て看板をして、誰しもが間違って入って来ないようにしているのだが、どうした事か、スパーンと勢い良く開いたドアから岩融が侵入して来たではないか。何事だ。理解し切れない頭では、大股で遠慮なしに侵入してくる岩融を追い出すという選択肢すら思い浮かばないのであった。



「どうした?随分と間抜けな面をしているぞ?」
「え、いや、お前がどうした?」



さも当然と言わんばかりに湯船に浸かっているが、何をもってしてそんな平然としていられるのか。慌ててタオルを掴んだ私は体を隠すようにしてタオルで覆い、距離を取った。それなのに、不思議そうに首を傾げた岩融が、これまた大股で距離を詰めてくる。何がしたいんだ。



「待って待って!なんで入って来たの?私、立て看板忘れてた?」
「いいや、看板はあったぞ。」



確信犯、だと。意味も分からないまま、あっという間に距離を詰められ、腕を掴まれる。私の頭の中はクエスチョンマークだらけで、ぐるぐると目が回りそうだ。しかし、岩融は短刀達と遊んでいるかの如く楽しそうに笑って、私の体を後ろから抱き込むようにして座った。お腹に回された腕はタオルのお陰で直接は感じないけれど、背に触れる肌の温もりが恥ずかしくて仕方がない。唯でさえ、お風呂に浸かって暖かいのに、これじゃあ逆上せてしまうかもしれない。妙に緊張して固まる私を余所に、岩融は豪快に笑う。



「本当になんなの……。」
「いや、なに、裸の付き合いも必要だろうと思ってな。」



確かに岩融の時代は裸への恥じらいが薄かった時代だが、現代の価値観とはかけ離れている訳で。兎に角恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。裸の付き合いなんてしなくても、他の方法はなかったのか。そもそも、これじゃあ立て看板を立てた意味がない。ぐるぐると忙しなく思考していれば、岩融に声を掛けられた。



「こうでもしなければ、主と二人で話す事すらままならぬからな。」



その声があまりにも落ち着いていて、一瞬で今まで考えていた事がどうでも良くなってしまった。流石、僧侶様のお言葉は違うな。いや、僧侶は喜々として戦ったりしないけど。ちらりと後ろに目を遣ると、にこにこ笑っている岩融がいて、恥ずかしがっていたのが、何だか馬鹿らしく思えてきた。



「今日だけだからね。」



体を岩融に預けると、やっぱりちょっとだけ恥ずかしかった。




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