長谷部「手入れ(意味深)お願いします。」



「手入れをお願いします。」
「いや、なんで。」



ボロボロな状態で帰って来たかと思ったら、私の目の前で服をバサバサと脱ぎ捨てて半裸になり、語尾にハートでもつけそうな猫撫で声で手入れをしてくださいってどういう事だ。我が本丸は軽傷といえど、傷の手当ては全て本職に任せてある。それが人間の傷であろうと同じだ。医療知識のない私がやるよりも本職に任せるのがベストであると判断したのだ。今までも、これからも、その方針を変えるつもりはない。それくらい、長谷部だって知っている筈だ。それなのに、なぜ、突然そんな事を。眉間に皺を寄せて怪訝な顔をしたって、おかしくはないだろう。



「本体の方はいつものように修繕しています。俺の手入れを、是非。ね?主。」
「いや、是非じゃなくてね?出来ないよ。ほら、血も出てるし早く治してきてもらいなよ。」



苦しいからなのか、息を荒げて詰め寄ってくる長谷部を押し返す。その体には、掠り傷ではあるが、幾つも切り込まれた跡があり、その跡からは血が滴っている。長谷部を押し返した際、掌にぬるりと血に触れた感触がして、少し気持ち悪い。頑張って戦ってくれた結果だ。感触が気持ち悪いというだけで、長谷部が気持ち悪い訳では、訳では、ない、筈だ。ぐっ、ぐっ、と力を込めて押し返すが、長谷部は中々退こうとしない。



「他の本丸では主自ら手入れをして下さるそうですよ。」
「余所は余所。」
「羨ましいです。」
「それが本音か!」



押し返すどころか、ぎゅうっと抱き込まれてしまって身動きすらとれない。きっと、私の服にもべったり血が付いてしまって、もうこの服を着ることは出来ないだろう。



「主自ら触れて頂けるなんて、そんなの羨ましいです。俺なんてこうして傷を作っても触れて頂けないというのに。」
「ひっ!?」



耳元で囁くような声がくすぐったい。それなのに、べろりと首筋を舐められて思わず体が跳び上がる。生温かいぬるりとした感触が、まるで血みたいで、やっぱり気持ち悪かった。長谷部の背中を叩いたり、体を捩ったりしてはみたが、長谷部は腕の力を更に強くする。そのまま舌は上に登り、頬を舐めて、そして耳の縁を甘噛みしては舐める。妙に熱い吐息も、舌の感触も、何もかも気持ち悪い。顔を背けて精一杯抵抗しても、たいして距離を置く事は出ない。



「ね、主。ずるいですよ。他の本丸ばかり。」
「んっ、ん、は、せべ!止めて…っ!」
「では、手入れをして下さいますか?」



どれだけ手入れして欲しいんだこいつ。薄ら涙すら浮かんできた目で恨みがましく睨みつけてやっても、相変わらず至る所を舐めてくる。私が何を言ったって、長谷部がどう思っていたって、こうして勝手にベタベタ触ってくるくせに、それでよく他の本丸が羨ましいなどと言えたものだ。言ってやりたかったが、それよりも早く、この気持ち悪い感触から逃れたい。ぞわぞわ鳥肌が立って、居ても立っても居られない。私は思わず首を縦に振った。



「分かった!分かったから!」



半ばやけくそ気味にそう言うと、長谷部はぴたりと動きを止めた。人間の治療方法だって、医療知識がある訳ではないのだから特別な事など知らない。適当に清潔なガーゼで血を拭って軟膏でも塗って絆創膏貼るくらいしか知らない。そんな私の治療を受けてどうするっていうんだ。しかし、それで良いと言うのだから、この妙な雰囲気から解き放たれるなら何だっていい。動きを止めた長谷部に、ほ、と胸を撫でおろし、妙に力強い腕の拘束から解放してもらおうと長谷部を見遣った。



「その言葉をお待ちしておりました!さぁ、手入れを致しましょう。」
「いや、なんで?」



思い切り押し倒された。はぁはぁと息の荒い長谷部はなぜか下まで脱ぎそうな勢いで手に掛けている。あの一瞬で私を押し倒し、腕を塞いで、足にも体重を乗せて身動きを封じるあたり抜け目ない。これが敵の前ならば褒めちぎってやるところだが、生憎それを私にしてしまうのは頂けない。逃げたい。



「手入れ、してくださるんですよね?」



果たして長谷部のいう手入れと私の思う手入れが同じなのだろうか。違う気がしてならない。




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