長谷部



他の奴等といると腹の奥底から何かどす黒いものが沸き上がるような、そんな気がしてくる。主の一番でありたいと願うのは、ただただ俺の傲慢だが、それに見合うだけの働きをしているつもりだ。それなのに、主は俺と他の奴等を一緒に扱う。周りはそれを平等と評価するだろうが、生憎俺はそんな綺麗な感情など持てなかった。一等でなければ、他と同じでは意味がない。



「主、少々休憩なされては如何ですか?茶をお持ちしましたよ。」
「ありがとう。長谷部は気が利くね。」



文机に向かって早数時間。我が主はつとめて真面目でいらっしゃる。上からの報告書だ任務書だと紙や俺には扱い方すらわからない機器が散らばる中、着実にこつこつと職務をこなしていく。夜も更け、皆が床に就く時間ですら、時折ではあるが、こうして文机に向かっている事もある。そんな主が俺の自慢ではあるが、こうして主に無理をさせているのだと思うと、上方が憎らしくなる。障子をあけて部屋に入ると、主は欠伸をしながら目元を擦っていた。



「今日はお休みになられては如何です?」
「でも、あとちょっとで終わるんだ。明日は遠征に行かない短刀達と遊ぶ予定だから、出来れば終わらせちゃいたいし。」



湯飲みを文机に置いた瞬間、どろりと負の感情が押し寄せてきた気がした。短刀達のために主が無理をする必要などないというのに。主の時間を一時でも独占するなど、なんておこがましいことか。俺以外と接している主を見るなど、なんと耐え難いことか。胸中に渦巻く感情を、主はきっと知らないだろう。こんな醜い感情を知られてはならないと思う反面、全てさらけ出してしまいたくもなる。俺の葛藤など露知らず、主は湯飲みに口をつけてゆっくりと飲み下す。そのまま俺の醜い感情ごと、飲み込んで受け入れてくれればいいのに。



「あ!そうだ。長谷部にこれあげる。」



文机の棚から取り出したのは、掌に充分収まるサイズの小さな包みだった。俺が不思議に思っていると、同じ包みを持った主が、包みを開いてみせてくれる。見よう見まねで同じく包みを開くと、中には茶色い塊が鎮座していた。



「チョコレート。甘くて美味しいよ。皆にあげるぶんはないし、誰かさんには夜中に甘い物食べると怒られちゃうから、他の子には内緒ね。」



茶色い塊ことチョコレートを口の中に放り込んだ主は、その言葉がどれほど俺の心を救っているのかなんて、知りもしない。貴方の一言一言に一喜一憂している俺の気持ちなど、分からない。だが、それでも構わない。こうしてお側に置いて、言葉をかけて頂ける。一番にして欲しいと思いながら、言葉一つで満たされる。矛盾した感情が俺の胸中を駆け巡るのだ。



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ヤンデレ一歩手前な長谷部と無自覚クラッシャーな審神者




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