鶯丸は夜目が利かない



「……鶯丸?」
「ん?その声は主か。」



すっかり夜も更け、寝入っていたところ、どすん、と体の上に何かが落ちてくるような衝撃で目が覚めた。重いし痛いし、睡眠を妨害された苛立ちから眉間に皺を寄せ、私の上にある物体へと目を遣ると、そこにはなぜか鶯丸が倒れ込んでいた。なんでだ。私を目の前にしてきょろきょろとしているのは、この近さで私が見えないからなのだろうか。歳取ると大変だな。



「何してるの?」
「いや、何。厠の帰りだ。」
「ここ鶯丸の部屋じゃないよ。」
「そうみたいだな。間違えたらしい。うっかり青江。」



この爺さん大丈夫かよ。未だにきょろきょろとしながら私を探している様子の鶯丸の手を掴む。そうすることで、ようやく私のだいたいの位置が掴めたようで、今度は空いている方の手でぺたぺたと私の足や腕を確認するように触っている。その手が頬まで伸びると、確かめる様に何度も何度も頬を撫でた。



「夜目が利かなくてな。」
「送って行こうか。」
「ふむ。だが、もう遅い。主の布団に入れてくれ。」



入れてくれと言いながら、勝手に布団をめくって入ってくるのなんなの。いつもの澄ました顔しながら自分の隣ぽんぽん叩いてくるのなんなの。私の布団なんだけど。



「寝ないのか?」
「……もういいよ。」



鶯丸のマイペースさは分かっているつもりだったが、理解出来るかと言われればそれはまた別の話だ。ついつい溜息の漏れそうなところを何とか耐えて、鶯丸の隣に寝転ぶ。一人分の布団に二人で寝るなどと面積的に無理がある。それにいくら春先といえど、まだまだ夜は冷え込む。布団から出るのは寒いのだ。しかし、くっつくのはどうにも気まずいので、反対側を向いて少しでも暖を取ろうと丸まっていれば、お腹の辺りに腕が回され、ぐっ、と引き寄せられる。



「今夜は冷える。」
「私は湯たんぽか何かですか。」
「主は暖かいな。」




鶯丸はもう少し人の話を聞くべきだと思う。振り返ると、目を閉じてすっかり寝る体制に入ってしまっている。どうやら本気でこのまま寝るらしい。寝返り打てなくて辛くないのか。そもそも狭くないか。そうは思ったが、私だって眠たかったところを無理矢理起こされている訳で、大人しく瞼を閉じた。



(主〜、昨日鶯丸と宜しくしたんだって〜?詳しく教えてよ!)
(え!?何それ。次郎誰から聞いたの?)
(んもう!隠さなくてもいいんだよ!)
(違います。誤解です)
(主、昨日は(暖かくて)良かった。またいいか?)
(鶯丸!!!ややこしくなるから黙ってて!?)




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