かみさまのうそつき!



主には、無数の糸が雁字搦めに結びついていた。どこに繋がっていて、誰と結ばれているのか。その数があまりにも膨大で、俺には分からない。そして、この糸が見えているのは俺だけのようで、他の連中にも、主本人さえ見えていないらしい。俺が糸の事を尋ねた時、不思議そうに首を傾げていたのがいい証拠だ。以降、糸について触れた事はない。しかし、ある時、この糸が何かを知る手掛かりを得た。演練相手の男の指に主と同じ糸が見えたのである。その糸を目で追って行けば、主の小指に結びついている。無数にある他の糸とは違う。他のどの糸とも絡まず、自分の存在を知らしめるかのような真っ赤な糸。その糸を見た瞬間、とある言葉が頭を過ぎった。運命の赤い糸。そんな風に呼べば情緒的に捉えられるのかもしれないが、気付いた瞬間、寒気がした。主を雁字搦めにしている無数の糸が、仮に主と関わりのある人間と結ばれているのであれば、主の小指と目の前の男の小指に繋がっている糸はなんだ。運命の赤い糸だと言うのなら、主がこの男と結ばれると、決まっているというのか。こんな男よりも俺の方がずっと主の側にいたのに?大して鍛えてもいないような形をして主を守る事が、この男に出来るとでもいうのか?そんな筈がない。この男が主の一番になれる筈がない。そんな資格、あっていい筈がない。




「では、俺は隣の部屋で控えておりますので。お休みなさいませ。」
「おやすみ。」



床の準備を済ませて主の部屋を出る。す、と障子を閉めても、すり抜ける様に真っ赤な糸が門へと伸びている。男が出て行った経路を辿るように、追い掛ける様に。その赤が忌々しい。月明かりに照らされて、まるで鮮血を思わせるその毒々しい色を見下ろしながら、俺は刀を鞘から抜いて振り下ろした。糸に圧し当てただけで、さらりと斬れてしまった糸は虚しく地面に落ちている。門へと続く糸はただ地面に落ちて、行き場をなくしているかのよう。こんなにも簡単に斬れてしまう糸で主とあの男が結ばれていたのだとしたら、とんだ笑い話だ。抵抗の一つも出来ず、こうして斬られて、終わり。運命だと言うのなら、抵抗の一つでも見せて欲しいものだ。男へと続く真っ赤な糸を踏みつけて、主に繋がっている糸の方をそっと手に取った。絹のような手触りで、油断をすればするりと掌から逃げてしまうのではないかと思うと自然、扱い方も慎重になる。手袋を外し、真っ赤な糸を掴んだ俺は左手の小指にぐるぐると巻き付けてから固く結びつけた。それこそ血が止まるのではないかという程、何重にも固く結ぶ。不思議と痛みはなく、どんなに糸を重ねたところで痛みも重さも感じない。不思議な糸だ。



「何度でも結び直しますよ。」



例え、小指に結びつけた糸が解けて他の奴と結ばれたとしても、何度でも斬って結び直します。結び目だらけになって歪な糸になったとしても、何度でも斬って俺の小指に結びつけてみせます。主が俺と結ばれるまで、何度でも。




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