幾度目かの永遠



「そんな薄着で外に出てはいけませんよ。」



審神者の才がある主は子供であるにも関わらず俺達の主を務めている。他の本丸に比べて出来る事といえば鍛刀と手入れ、俺達刀剣男士の様子を見る事くらいしか出来ないが、上の人間にとってはそれさえ出来れば特に問題はないらしい。勿論、それだけやっていれば許されるという訳ではなく、出陣や遠征、それに伴った戦況報告など、本来審神者がすべき仕事を代わりに俺達がやる事で、今まで何とかしてきた。そんな主だが、何れかは俺達が今している事をやらなければならない。今のうちから少しずつ覚えて頂こうと、決まった時間に仕事を教えるようにしている。俺達の本丸では、それも含めて含めて近侍の仕事となっていた。しかし、主は時折、姿を見せない事がある。遊びたい盛りだろうし、小難しい事務仕事でつまらない事は重々承知していた。ただ、俺ばかりが甘やかしたところで、歌仙や蜻蛉切が厳しくする事が目に見えている。光忠も口煩い。幼子だからなのか、一期一振も厳しい顔を見せている。そして、日々当番制の近侍の役割が回ってきた今日、約束の時間に書類を持って向かった主の部屋はもぬけの殻で、本丸中を探し回ってようやく、裏庭に主の姿を見つけたのだった。雪が降り積もり、冷え切った空気が肌をさす中、わざわざ外に出る筈がないと思っていたが、子供は風の子とは正にこの事か。さくさくと音を立てて雪を踏み締めながら、しゃがみ込んでいる主の側に歩み寄った。俺の言葉が届いている筈だが、こちらに振り返る事はせず、黙々と手を動かす主を背後から覗き込む。どうやら雪を掻き集めて何かを作っているらしい。



「主?」
「できたぁ。」



頬や鼻先を真っ赤に染めた主が俺の顔の前に手を突き出してくる。手袋もしていなかったようで、真っ赤になった指先が痛々しい。霜焼けになってしまっているのではないか。しかし、主はそんな事を気にする様子など一切なく、掌に雪の塊を乗せて俺に見るよう促してくる。思わず、小言よりも先に目に入ったその雪の塊は、恐らく、去年歌仙が作っていた雪兎だろう。耳の様な葉がくっついていて、目が象られている。両の掌に乗せられた二匹の雪兎は歌仙が作っていたものよりも、随分と不格好ではあるが。



「これね、ゆきうさぎだよ。一ぴきは長谷部にあげる。」
「俺に、ですか?」
「うん。長谷部はさみしがりだから、これをわたしと思ってればさみしくないよ。」



しゃがみ込んで掌を差し出せば、崩れないようにそっと一匹の雪兎が俺の掌に渡された。ひんやりとした雪の冷たさが掌に伝わる。やはり、歌仙が作った見本よりも随分と不格好だ。雪兎の胴は凸凹している上に、目の大きさも違う。耳の大きさだって適当にちぎられているだけで、揃えられてはおらず、歌仙が見れば何とも渋い顔をしそうだ。しかし、嬉しくないとは言わないだろう。例えどんなに不格好でも、主が思いを込めて作った物を貶す様な奴ではない。勿論、俺だって嬉しくない筈がない。主が、俺の事を考えて手がかじかむのも気にせずに作った物だ。寧ろ自慢して回りたいくらいである。俺の反応が気になるようで、主が俺の様子をちらちらと窺っていた。



「ありがとうございます。大切に、します。」
「長谷部、もうさみしくない?」



心配そうに覗き込まれたが、俺は主に心配される程、寂しいだなんて嘆いた覚えはない。一体、何を思って主がそんな事を言っているのか分からず、答えに困ってしまう。主は俺から視線を逸らしてしゃがみ込んだ。



「まえにね、鶴丸が言ってたんだよ。長谷部はわたしがいないと元気ないって。だからね、わたしがいなくても元気でいられるように、って。」



にこにこと、どこか自信に満ちた主が俺を見詰める。全く、常は気遣い等とは縁遠い態度をしていならが、俺達刀剣男士の事をしっかりと見ているのは主が審神者の才があるからか、それとも主自身の性格によるものか。どちらにしても、嬉しい事には変わりがないのだが。



「はい。寂しくありませんよ。ですが、俺がこの本丸にいる間は、寂しくないよう側に置いてくださいね。」



そう言えば、主は子供らしからぬ笑みを浮かべていた。




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