夜も更け、人々の寝静まった静寂の中、私は起き上がり部屋から抜け出した。手には大事な首輪を持って。すぐ隣の部屋で眠る名前はしっかりと眠っている。なぜ別の部屋で寝ているのかと言われれば、睡眠時間の少ない私に合わせた生活を送れば名前の体が壊れるからだ。寝ようにも部屋で作業をされれば誰しも自然と起きるだろう。私なりの配慮だ。普段から夜中には当然寝ている名前だが、此度は少しばかり睡眠薬を盛った。即効性ではなく、じわじわと蝕むかのような眠気が訪れる。それも手伝って体を少し揺さぶろうとも起きない名前の体を跨ぎ、そっとその首に腕を伸ばす。するりと撫でる肌触りが良く、このまま噛み付いてしまいたい衝動に駆られるが、いくら睡眠薬を使っているとはいえ、使用容量よりも少なめだ。流石に起こすだろうと手を引き、持って来た首輪をその首に取り付ける。この前は散々文句を並べられた挙句に却下されたが、納得などいくか。恥ずかしいだのくすぐったいだの、そのような文句とも言い訳ともとれる言葉を聞いて私が納得など出来る筈がない。薄紫色の首輪は余計な装飾など一切無く、ただ金具を留めるためだけの穴が数箇所空いているだけの物。他に用途などありはしないのだ、それで構わない。肌触りが良く、噛み付いてしまいたくなる首筋は今や首輪に隠れてしまった。嗚呼、だがそれでいい。これで名前が私のものである証が視覚で確認出来る。そっと首輪を撫でれば、人肌などではない無機質な冷たさが伝わる。簡単に壊れぬよう布や綿ではなく、鉄で作らせた。これも直に馴染み、名前の体温が伝わってくるようになるだろう。



「ん……」



しかし、鉄で作らせたのがいけなかった。首周りの冷たさに違和感を覚えたらしい名前が眉間に皺を寄せながら小さく声を漏らす。暫くして、薄らと目を覚ました名前がびくりと体を跳ねさせた。その目は驚きに見開かれている。そうして完全に目の覚めた名前は首に手をやってペタペタ何度もその感触を確かめているようだった。



「み、つな、り、さん?なに、を?」
「拒否は認めない。名前には首輪を付けた。」



見るからに慌てた様子の名前が何度も何度も取外そうとしているようだが、鉄で作られた首輪がそう簡単に外れる筈もなく。しかしながら、名前は必死に首輪に手を掛ける。



「な、なんてことしてるんですか!ん、もう、これ、くすぐったいっ!はっ、ぁ、んっ!」



暗がりにも慣れ、段々と表情が見えるようになってくれば、名前の瞳に薄ら涙が浮かんでいるのが見える。そこまで嫌なのか。外してやる気などないが。そもそも一度触れば名前の力で引き千切れるようなものではないと分かるだろう。そんなもの、私が最初から買わん。暫く自分の下で首輪を外そうと躍起になる名前の様子を眺めていたが、一つの異変に気付いた。息が上がり、時折耐えきれない小さな声が漏れている。



「み、三成さん!ぁ、これ、本当にっ、くすぐった、い、ですっ!」



これではまるで情事のようではないか。その後も名前が何か言っているようだが、頭になど入るものか。徐々に速まる心臓を落ちつける為に目を閉じたが、余計に喘ぎ声ともとれる声が耳に残って仕方ない。思い起こせば、久しく名前に触れていなかった。ならば、構わないか。未だに暴れる名前を無視して、そっとその頬に触れる。ほのかに暖かい。



「三成さん?と、とって、くだ、んむっ!」



外せ外せと煩い口を塞いでやっても、背を叩いたり声にならない声をあげたりと忙しない。それが煩わしく、唇を噛んでやれば小さな悲鳴と共に開いた口に舌を入れた。分かりやすく跳ねた体に気を良くしながら、貪るように口付けをして舌を絡めれば、先程までの抵抗などなかったかのように大人しい。解放してやる頃には期待するようなその目に生唾を飲み込んだ。



「……名前。」
「くすぐったい!!!」
「ぐっ!?」



火事場の馬鹿力とはよく言ったもので、これからという時に思い切り腹に蹴りを入れられた。思わぬ攻撃に避けることも出来ず、その場で腹を抱えれば、私の下から抜け出した名前が部屋の明かりをつけてばたばたと忙しなく動き回っている。



「ひ、酷いです!無理矢理なんて!鍵貸してください!」
「き、さまっ!」
「怒ってるのはこっちですからね!?」



他人の腹に蹴りを入れておいて何を。思ったが、それすら面倒に思える程に腹へのダメージが大きかった。なぜそんなに首輪を外したがるのか。腹に蹴りを入れるな。そういった意味合いを込めて名前のことを睨みつければ、分かりやすく慌てている。ふん、愛らしいなどと思ってはいない。



「は、外してください!」
「断る。」
「……三成さんがそのつもりなら、私にも考えがあります!」



涙目になっておいてよく言う。その姿を見て抱き締めてやりたいなどとは微塵も思っていないが、もしこのような姿を何処ぞの馬の骨とも知れぬような輩に見せているのであれば、それは断罪ものだ。まして、家康であれば許しはしない。少しずつ痛みの引いてきた腹を擦り、立ち上がって名前との距離を詰める。



「家康さんに言い付けてやります!」
「断じて許可しない!!!!!」
「ひぎゃー!」



よもやこのタイミングで家康の名前が出ること自体憎らしい。そして、名前の脳内に家康のことを考える瞬間が一時でもあったという事実が憎らしい。何より、家康を頼りにすることが憎らしい。名前の頭を掴んで指に力を入れてやれば、分かりやすく怯えている。痛いと言いながら私の手を必死に剥がそうとする姿は何とも滑稽だった。



(家康の名など口にするな!私が許可しない!)
(ごめんなさい!でも、首輪は外して!)



―――
※全て三成視点であって、夢主の様子などは三成の良いようにしか見えてません
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -