三成さんは嫌いだ。何かにつけてすぐに怒るし手も上げる。この前だって、戦で十分な働きが出来ていないからと打たれた。頬の腫れと赤みは中々引かず、翌日も痛々しく跡が残った。責任転嫁だとか、そういうつもりはないが、三成さんはまるで私を目の敵にしている。他の兵が失敗しても見向きもしないくせに、私が失敗すればここぞとばかりに怒鳴って殴る。戦に出るよりも、三成さんのせいで体中に生傷が絶えなかった。今日もまた打たれた。ズキズキと打たれた背中が痛む。毎日のように打たれたとして、痛みに慣れることはない。私は少しでも気を紛らわせる為に夜着に手を掛けた。しかし、着物を脱げば、体の至る所に内出血が広がり、切り傷や消えずに残った跡が目に付く。醜い。女の体とは思えない程に醜い体をしている。どうして私ばかり。私が三成さんに何をしたのだろう。膝を抱え込み、顔を膝に埋めた。どうして、なぜ。堂々巡りの思考は意味を持たず、恐怖や不安、悲しみに支配され、自然と流れる涙が着物を濡らした。

***

「やれ三成、此度も派手にやりよったなぁ。」



何事にも無頓着なこの男は太閤殿に報告が終わるや否や足早に部屋へと戻ろうとする。その後を着いて行き、皮肉を言ってやれば、その足はいとも容易く止まる。振り返った男は睨み付けるでも罪悪感に苛まれる訳でもなく、至って平静であった。



「それがなんだ。」
「主にしては到く執心よの。」



ヒヒ、と笑えば分りやすく眉間に皺を寄せた。しかし、女子にしたように我を打ったりはない。正確には、我以外であったとて、三成という男は打ったりはしない。ならば、なぜあの女子だけを打つのかといえば、それは良くも悪くも三成が女子に執心しているから。太閤や賢人に対する敬愛、尊敬などという類のものではない。もっと醜く澱んだ感情。



「名前の傷跡は印だ。傷跡を見れば私を思い出し、痛みは思いの強さだ。傷跡が残ればそれを見た時に名前は私のことを思い出すだろう。痛みが長引けば、その間中私のことを思うだろう。名前は私のことだけを考えていればいい。」



淡々と語る口調に、罪悪感は微塵も感じられない。寧ろ、その言葉が正しいとさえ思わせる態度に再び笑いが溢れる。一層眉間に皺を寄せた三成は、もういい、そう吐き捨てて足早に部屋へと背を向けた。何とも哀れな男よ。好いた女にすら歪んだ愛情を押し付けることしか出来ず、心が欲しいと思いながらも、心を手にするには一番掛け離れた行為を、愚かしくも繰り返している。少しでも優しくしてやれば、少しでも感情を抑え押し付けることをしなければ、心を手に出来た可能性があったというのに。自ら手放しているのだからこれ程面白いことはない。ああ、愉快、ユカイ。
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