「待って待って待って!!!」
「鬱陶しいぞ!」



細身のくせに力だけはやたらと強い男の腰にしがみ付いてみるものの、引き摺られて終わるという虚しい結果で終わってしまった。男は言葉通り私のことを鬱陶しそうに引き摺るが、引き剥がしたり、そこら辺に放り出さないあたり、不器用な優しさが窺える。しかし、だからといって絆されたりしない。腰に回した腕に思い切り力を込めてやれば少しばかり苦しそうに呻いて足を止め、こちらを睨み付ける。私だってこればかりは譲れない。普段なら大人しくしていたかもしれないけれど、負けじと私も睨み返した。



「何だ。一体何の不満がある?」
「不満しかないです!お、おかしいですもん!絶対おかしい!変!」
「何がおかしいものか。それは名前の頭で十分だ。」
「酷い言われよう!そういうことじゃなくて、首輪付けるってどういうことですか!?意味分からないです!あ、でも分かりたくもないです!」



私が必死に男、三成さんの足を止めにかかっていたのは、今後の生活に支障をきたす為である。友達とご飯を食べて帰って来たら、突然思い立ったかのように「貴様には首輪が必要だ。今直ぐに。」そう言って立ち上がるものだから理由を聞く暇もなく、私は彼を止めなければならなかったのである。三成さんのことだ、比喩的表現を使うとは思えない。つまりは首輪なのだ。正真正銘の首輪。チョーカーやストールなんかじゃない。犬や最近では猫でも使われる首輪。そんなもの付けて外になんて出られる訳ないし、私は首に何か巻きつけるのがくすぐったくて仕方ない性質なのだ。無理である。



「どうもこうもあるか!名前がふらふらと好き勝手に居なくなるからだろう!」
「そ、そんなことないです!インドアなんだから普段は家にるじゃないですか。」
「先程まで家を空けていた身でそのような戯言がよく言えたものだな。」
「それは偶々ですよ。そりゃ、インドアですけど折角の誘いを断る理由もないじゃないですか。」
「なぜ私に言わない!」
「ええ!?」



一体何に怒っているのやら。すっかり足を止めた三成さんと対峙するように向かい合うと、それはもう声を荒げ、まるで威嚇をするように怒鳴る。何て近所迷惑な。思うが流石にこの場面で口には出せなかった。今までだって友達の誘いで家を空けることは何度もあった。今日みたいにただ食事をするだけだったり、旅行だったり。けれど、今までそれを咎められたことはなかったし、三成さんだって敬愛する上司の秀吉さんや半兵衛さん、友達の刑部さんや部下の左近さんと一緒に何処かに行って家を空けているくせに。困惑半分、怒り半分、何とも複雑な心境だ。



「名前はいつもそうだ。こうして共に暮らしているというのに、気付けば私の腕をすり抜ける。どんなに力を込めても、どんなに監視をしていても。」
「か、監視……。」
「名前は誰のものだ?今日夕餉を共にした友とかいうやつか?それとも私の知らぬ誰かか?そんなことは、断じて許可しない!」



引っ掛かる言葉があったことは確かだが、今は追及しないでおこう。三成さんの顔を見ると、怒っているようでいて、けれど少しばかり寂しそうにも見えて。そういうところは器用なくせに、その実面倒な性格がわざわいして凄く不器用。自分の感情を素直に表せるのは怒ってる時だけ。そんな性格を直して欲しいと思う反面、そのまま不器用で愚直なままでいて欲しいとも思う。私も大概だな、と思いながら心の中で溜め息を吐いた。



「三成さ「何と言おうが名前は誰にも渡さない。私のものだ。そのための印は必要だろう。何時ぞやこうなるとは思っていたからな。もう用意はしてある。」」
「こういう時だけ行動早いの本当困る。」



さっと部屋に飛び込んで戻って来た三成さんが手に首輪持ってたから本当この人頭おかしいと思う。少しでもときめいた数秒前の私殴りたい。あれだけ必死に足止めしたにも関わらず、こうもあっさりと首輪持ち出されると泣きたくなる。それも、準備済みなのが余計に涙腺に響く。痛くなりそうな頭を抑えながら三成さんから距離をとった。



「拒否は認めない。」
「三成さん落ち着いて。ウェイト。ハウス。」
「犬畜生と同列にするな。」
「……なんで首輪なんです?もっと、こう、いろいろあったでしょう?チョーカーとか、ネックレスとか。」



いや、チョーカーはくすぐったくて困るけど。それでも、首輪なんて付けるよりかはよっぽどましだ。呆れながら提案した言葉に三成さんは珍しく感心したようにこちらを見詰めていた。もしや……。



「思い付かなかったんですか…っ!」
「手っ取り早く思い浮かんだ物だったからな。」
「逆にその発想はないんですけど。」



もう駄目だこの男早く何とかしないと。本当に痛み出した頭を抑え、散々繰り返された押し問答の末に首輪却下に成功した時の私の嬉しさたるや。三成さんはどことなく不満そうではあったが、何とか世間様のお目汚しだけは免れて心底安心したのだった。
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