→夢主トリップ



着る服がない。科学技術が発達した現代から突然辺境の地に飛ばされたのだから、着替えなんて持ってきている筈もなく。どうしたものかと官兵衛さんに相談したら、浴衣のような物を貰った。戦国時代といえば着物なのでは?なんて思いながら、どうせ一人じゃ着つけなんて碌に出来やしないし穴倉なんて場所では動きにくいだけ。若干心許ないが、下着の代わりやらなんやらを支給してもらって手早く着替えを済ませ、現代の服を手洗いすることにした。



「お前さんの服は面白い構造をしてるんだな。」
「官兵衛さんに比べれば大したことないですよ。」
「小生より凄い奴なんていくらでもいるぞ。」
「私の知ってる戦国時代と違う……。」



ごしごしと井戸から汲んだ水で手洗いをしながら、官兵衛さんはまるで勉強でもするように私の服を見詰めていた。ある程度洗い、汚れが落ちたことを確認してから服を絞って適当な所に干す。太陽の元で干したいのだが、それは贅沢というものだ。現代っ子代表の私はたったこれだけのことで一仕事終えた気分になり、思い切り背伸びをする。屈んで手洗いしていたから少し足が疲れた。すると、私の伸びが終わらないうちから官兵衛さんが私の胸倉を掴んでくるではないか。驚いて万歳のような態勢をとったまま固まってしまった。



「か、官兵衛さん?」
「お前さんなぁ……。」



正直殴られるのかと思っていた。目が見えないから表情が読みにくい上に穴倉は暗い。現代の常識が通じない世界に来て、もしかしたら気に触ることをしたのかもしれない。困惑状態のまま、震えながら大人しくしていれば、腰の辺りにある帯を解いて肌蹴ていた服を整えてくれた。そんな官兵衛さんの行動に目をぱちくりさせながら、黙っていれば先程よりもずっときつく帯を結ばれて身形を綺麗に整えられた。



「肌蹴てると見っともないだろう。」
「え?あぁ、はい。着慣れないもので。」
「まぁ、お前さんの着物を見れば構造が全く違うようだしな。」



どうやら殴られると思っていたのは私の勘違いだったらしい。綺麗に整った身形をきょろきょろと自分の見える範囲で確認しながら、その出来の良さに戦国時代の主流はやはり着物なのだと再確認した。ずるずる、思い鉄球を引きずりながら官兵衛さんは背を向けて歩き出している。一体何をしにきたのだろう、この人。不思議に思いながらも走って官兵衛さんの横に並ぶ。意外と背が高い。



「ありがとうございます。」
「おう。早く慣れるんだぞ。」
「努力しますけど、出来なかったらまた頼んでもいいですか?」



ちらりと見上げた先には困ったような、照れているような、よく分からない表情の官兵衛さんが目に映った。



「お前さんな、男に身形を整えさせるなんて……。いや、それよりも小生だって男であってだな、そんなに我慢の利く方でもないし、手枷のせいで御無沙汰というかだな……。」



そこまで言われて察しがつかない程、鈍感でもないし子供でもない。だからといって私の頼れる人はこの人しかいないのだから、官兵衛さんが何と言おうと頼むに違いない。歯切れの悪い官兵衛さんの言葉を全て聞き流しながら私は隣を歩いた。
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