「貴様ァ、性懲りもなく私の前に姿を晒したか!いいだろう、斬滅してやる!」
「すみません!ご免なさい!三成様に会うつもりはなかったんです!許してください!」
「ならん!今直ぐその首を差し出せ!」



石田軍で女中として働くようになって直ぐ、私は三成様に刃を向けられるようになった。最初は身の回りのお世話だとか、毎食の膳運び、眠れないという三成様のお話相手だってした。それなのに、私が一体何をしたのか分からないが、急に刃を向けられて、それはもう驚いた。反射的に逃げたが、それからというもの、会ったが最後、刃と同じくらい鋭い視線で睨み付け、声を荒げながら抜刀されるので私は日々心臓が潰されそうである。たった今も、大谷様に朝餉を運び終え、厨房に戻る途中で三成様に見付かってしまった。失礼とは思いながら、走りながら謝罪を口にしたところで許してくれる筈もない。



「やれ、三成。あまり名前を苛めるでない。」
「刑部!何の真似だ!」
「大谷様ぁ!」



風の噂で馬より早いと聞いた三成様に確かに私は敵わないが、こうして生きているように今まで一度も捕まった事はない。それもその筈。救世主大谷様が庇ってくださるからだ。ふよふよと優雅に神輿に乗っている様とか、最近では私の中で大谷様が神様なのではないかと思って疑わないくらいだ。さ、と神輿の後ろに隠れ、恐る恐る三成様の様子を窺うと、ぎりぎりと歯軋りをしながら射抜くような目付きで睨まれた。何故だ。少し前までなら、厳しくはあったけれど、こんな風に怒鳴ったり追い掛け回されたりしなかったのに。



「主も不器用よなぁ、ヒヒッ!しかし、何時までそうした態度をとっている?いよいよ嫌われるというものよ。」
「フン、だから直せというのか?無理だな。」
「ヒヒッ!そうよなぁ。ならばどうする?」



他人の不幸は蜜の味派の大谷様は、さぞ私の事を面白い玩具だとでも思っているんだろう。現に今もそりゃあ、楽しそうに笑っている。それでも、助けてくれるのならこの際誰でも良い!こっちは命が掛っているのだ。縋れるものならば縋りたい。雑草根性である。大谷様を挟むと比較的平常心を取り戻してくれる三成様に、少し前までは私の前でもああだったのにな、なんて悲しいやら何やらで複雑な気持ちになる。しかし、感傷に浸っている時間など私にはないし、こんな所で油を売っている時間もない。まだ一日は始まったばかりで、仕事だってわんさか用意されている。出来る事なら、早急に持ち場に戻りたい。ちらり、と大谷様に視線を投げれば、しっかり視線がぶつかって、少しばかりその目が細められる。



「あい、分かった。名前、ぬしは先に行くが良い。我は三成と話しがある故な。」
「ありがとうございます!では、失礼します!」
「なっ!?待て!行くな!誰が許可した!」
「我よ。」
「刑部!!!」



待ったが最後、殺されるというのに誰が待つか。一応、三成様にも見えるように頭を下げて、これ以上命の危険に晒されないよう、さっさと逃げる事にした。走りながら後ろを振り返ると、まんまと標的を変えて大谷様に噛み付いている三成様に安堵しつつ、一刻も早く持ち場に戻る。どうして私はこんなにも三成様に嫌われてしまったんだ!



(名前を見ると落ち着かん。心拍数が上がり、動機息切れ、体温の上昇、周囲が視界に映らない。名前を殺せば、落ち着いて政務にも取り組めるというのに……っ!)
(名前も気の毒よなぁ)
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