何度も何度も戦に繰り出して、その度にその場で死ぬ事が出来たなら、これ程楽な事はないだろう。そう思ったけれど、傷を負うばかりで致命傷には程遠く、只痛みだけが体にも心にも増えていくばかりだった。しかし、体の傷は幾日もすれば癒える。心も、無にしてしまえばいい。嫌味も皮肉も、聞き慣れてしまえば腹を立てる事も、病める事もない。それが当り前なのだ。私に掛けられる言葉の当たり前。それ程の事を仕出かした。自業自得。身から出た錆。因果応報。つまるところ、全てが自分のせいなのだ。



「勝家様?」
「……名前様。」
「どうし、って、怪我!怪我してますよ!」
「今し方、戦から帰還しました故。」



慌てふためく彼女は、青褪めた表情をしたまま、その場でおろおろしている。確かに怪我はしているかもしれないが、甲冑につく多くは返り血だ。見た目程ではない。城内にいる女子供には少々見慣れぬ故に慌てるものかもしれないが。私は一礼してその場を去るつもりでいたが、彼女は私の手を自らの両手で掴むと、恐る恐るといった様子で私の体に視線を彷徨わせている。暖かい。



「何か?」
「だ、だって、怪我を!早く手当てしないと!」
「……騒ぐ程ではありません。」



何を慌てているのかと思えば、そのような。私が織田軍において、どういう立場にあるのか、流石の女といえども分かっている筈だ。そんな私の心配をして何になるという。おかしな人だ。しかし、暖かい掌だ。生きている人間とは、皆こうも暖かかっただろうか。すっかり、忘れてしまった。冷え切った体に、じわりじわりと暖かい人間の体温が染み込んで、彼女に握られている掌だけが、やけに熱を持っているように感じた。



「薬を持って来ます。」
「しかし……。」
「勝家様は働き過ぎです!そのうち倒れますよ。そうなる前に、少しは体を休めないと。いいですか!湯浴みが終わったら部屋で待っててくださいね!」



なんと強引なお方だろう。言うだけ言って、私の元から嵐のように去ってしまった。その場に残された私はといえば、唖然と彼女の走り去る後ろ姿を見送る事しか出来ず。見えなくなってしまった姿の代わりに、先程まで触れられていた掌を見詰めた。戦前と、何も変化などないというのに、じわりじわりと暖かい。ふと、また彼女に会いたいと思った。どうやら、あの暖かさに私は安堵しているらしい。人から心配される事が、触れられる事が、こんなにも懐かしく、暖かいものだとは、すっかり忘れてしまっていた。私の織田軍における扱いは、当たり前だと理解している。嫌味も皮肉も、軽蔑も屈辱も、全て受け入れるべきものであると。それなのに、彼女は私の身を案じ、手当までするという。おかしな人だ。同情でもしたつもりだろうか。心のうちで思う事は彼女を疑う言葉ばかりだというのに、歩を進めた体は戦前より幾分も軽かった。



(さ、勝家様、怪我をしているところを見せてください)
(貴方様の前で醜い体を晒すなど、おこがましく)
(脱がしますよー)
(!?)
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