「わっ!び、吃驚した!」
「………………。」



音もなく現れるのは毎度お馴染みの風魔さん。気付くと目の前にいたものだから、思わず声をあげてしまったが、失礼なことをしてしまった。無言を貫き通し、甲で隠された顔から表情を読み取る事は出来ず、怒っているのかどうかすらよく分からない。恐る恐る、見えない顔を覗き込むように様子を窺うと、突然目の前に何かを差し出された。



「?」



目の前に釣り下げられたものは、私が何時も風魔さんと行く団子屋の包み。官兵衛さんにお土産として買って行く包みなのだ。間違いはない。しかし、突然どうしてこれを買って来てくれたのだろうか。そして、喋らずにどうやって買って来たのか。不思議に思って、未だに包みを差し出したままの風魔さんを見上げた。



「どうしたんですか?これ。官兵衛さんへの早めのお土産ですか?」



とりあえず思ったことを口にしてみたが、首を振られてしまった。どうやら違うらしい。では、一体なぜ。いまいち読めない風魔さんの行動に悩んでいれば、不意に腕を掴まれ、そのまま包みを持たされた。そして、その手をぎゅ、と握り込まれる。最近思うけれど、風魔さんは喋らない分、こうして体に触れて表現する事が多い。こんな穴倉で生活しているから、男の人にも慣れたもの、と自分では思っていたが、どうやらそうでもないらしい。風魔さんに触れられると、どうにも照れくさい。体温が上がり始めたことを必死に隠しながら、私は口を開いた。



「もしかして、私達に、ですか?」



ちらりと様子を窺えば、こくりと確かに頷いた。手を離して、何時ものように腕を組んだ風魔さんは、どうやら官兵衛さんだけではなく、私へのお土産として団子を買って来てくれたらしい。それが嬉しくて早々にお礼を言えば、首を横に振ってしまう。案外謙虚だ。伝説の忍がこんなにも謙虚だなんて、きっと誰も知らないだろう。思わずくすくすと笑ってしまったが、あることに気が付いた。



「どうして私の分も?お店になら直接行けるのに。」



勿論、このお土産に不満があるとか、そういうことではない。ただ単純に、これから連れて行ってくれるのになぜ私の分までわざわざ買って来てくれたのか、疑問だったのだ。しかし、風魔さんは首を振るだけ。よく分からない。首を傾げて頭の上にさぞや疑問符が沢山浮かんでいる事であろう。すると、風魔さんが上を指さして首を振る。



「あ!もしかして、今日は外に行けないって、ことですか?」



自分で言っておきながら尻すぼみになる言葉に、ちゃんと聞きとれていれるのかどうか。そう思いながら、浮かんだ言葉を口にすれば、こういう時ばかり見事に言い当ててしまうのだから、何とも複雑だ。静かに頷く風魔さんに、思わず肩を落す。よくよく考えてみれば、風魔さんは仕事の用事でこの穴倉に来ている訳で、わざわざ私を外に連れ出してお茶の相手をする必要などない訳だ。寧ろ、今迄風魔さんの好意に甘えていただけなのだから、がっかりするのはお門違いもいいとこだ。私は慌てて誤魔化すように苦笑いを浮かべる。



「すみません。お仕事なのに、何時も付き合ってもらっちゃって。外に行けないのは残念ですけど、わざわざお土産まで持って来て頂いて嬉しいです。ありがとうございます。」



もしかしたら、今迄も迷惑だったかもしれない。今度からは誘わない方がいいかもしれない。小田原から来ているのだ。疲れているだろう。そこに更に追い討ちをかけるような真似をしていたかも。次から次へと溢れる悲観的な思考を無理矢理頭の隅に追いやって、何とかこの場を凌ぐことに必死になっていた。しかし、伸ばされた手が頬を包んで顔を持ち上げられ、相変わらず読めない風魔さんの行動に何事かと驚いて目をパチくりさせていれば、焦点が合わない程、近くに風魔さんの顔が見える。少しの間だけ、唇に柔らかいものが触れていて、完全に思考が停止していた。



「え?」



再び思考が動き出したのは風魔さんが離れてからで、さっさとその場から姿を消してしまってからだった。なんでいきなり?私が落ち込んだから?それにしたって、あ、あんなことする?いや、そもそもだ、根本的なところで問題があるだろ。せ、接吻とか、好きな人以外に気軽にしちゃ駄目でしょ!で、でも、もしかしたら、そういうこと?いや、でも、それならなんで接吻?ぽつんと一人、その場に立ち尽くしていた私は、徐々に顔に熱が集中するのが分かって、思わずその場にしゃがみ込んで頭を抱えたのだった。



―――
正直これが書きたかったのに脳内設定いろいろ付け加えてたら1を書かざるを得なくなったのだった。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -