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ディオとバレンタインデー


黄色い声をあげて騒ぐ女がひどく癪に障った。勿論、外面は笑顔を保ったまま、ラッピングされたチョコレートを受け取りはするが、帰ったら即捨てる予定だ。手渡されたチョコレートは普段使いの鞄だけでは収まりきらず、見兼ねた先生から紙袋を貰い、それにぎゅうぎゅうと押し込む。形が変形しようと捨てるんだから関係ない。



「わァ、ディオ凄い量だね。」
「そういう君だって沢山貰っているじゃあないか。」



声のする方に振り向けば、ジョナサンが両手に抱える程もチョコレートを持っている。特に興味もないそれらをジョナサンは早速頬張って実に嬉しそうだ。そういえば、こいつチョコレートが好きだったなといらない情報まで思い出してしまった。しかし、ついでに良いアイディアも浮かんだ。暢気なジョナサンの鞄を無理矢理掴んで、そそくさと学校を立ち去る。その際にも道行く女にチョコレートを手渡されたが、今度は先程よりも少しばかり心穏やかに受け取ることが出来た。



「ディオ、どこまで行くんだい?」
「そうだな。ここら辺で良いだろう。ほら、チョコレートが大好きな君にプレゼントだ。」
「えッ!?うわッ!」



チョコレートなんて貰っていたせいで普段の下校時間はすっかり過ぎ、道路には人通りも疎らだ。それでも、一応人がいないことを確認してから僕はジョナサンに紙袋と鞄からチョコレートを取り出して押し付けた。元より顔も見たことない女から貰った物など捨てる予定であったし、それなら人にあげたって同じだろう。



「ディ、ディオ!これは君が貰った物だろう!」
「君が食べないなら捨てるまでだ。」



口を噤んでいるところを見るに、言い返す言葉が見付からなかったらしい。僕はひらひらと手を振って、これ以上小言を言われる前に早々にこの場を立ち去った。

***

「お帰りー!」
「…ただいま。」



家に帰ると、いやに上機嫌な名前が玄関まで走って来た。にこにこしているのは普段通りだが、いつも以上に周りに花が飛んでいるというか、間抜け面というか。若干引きながら返事をすると、名前はあれ?と不思議そうな声をあげて首を傾げた。



「チョコ貰わなかったの?」
「チョコ?」
「だって今日バレンタインだよ?ディオならいっぱい貰ってくるだろうから、記念に写メ撮ろうと思ってたのに。」



この女はどこまで僕を子供扱いすれば気が済むんだ。何が記念だ。君は僕の親か何かか。いや、保護者代わりではあるが、そうではなくてだな。悶々としている僕をおいて、名前は残念だなんだと言いながらリビングへと戻る。釈然としないまま僕もその後をついていけば、リビングのテーブルには手作り感満載のラッピングされたチョコレートの他に、綺麗に包装された、まるで高級なプレゼントのような箱が幾つか置いてある。



「なんだ?それ。」
「んー?貰ったの。」
「ふーん。君にこんな良い物をくれる友達がいたのか?」
「これはディエゴからで、こっちはジョニィから。」



名前の口から出てくる二人の男の名前に、僕の眉間に皺が寄る。ついでに酷く腹立たしい。笑顔を引きつらせ、素っ気ない返事をしても名前は暢気に喜ぶだけだ。あいつら、まさかバレンタイン如きイベントに乗っかって付けいろうって魂胆なのか?ジョニィとかいう男はただの友達らしいが、ディエゴは侮れない。あいつには注意をしなければ。睨み付けるようにそれらのチョコレートを見詰めていれば、名前が見当外れなことを言うものだから、僕はいい加減呆れてしまった。



「ディオもチョコ食べたいの?」
「……違う。だいたい僕は貰ったチョコは全部捨ててきたんだッ!」
「え!?なんで!?勿体ない!そういうの良くないよ!ディオのために折角作ってくれてるんだよ?」
「誰とも知れない奴からの貰い物なんて食える訳ないだろう。僕はそんな女から欲しいんじゃあない。」



その後に続く言葉は飲み込んだ。これじゃあ、まるで僕がチョコレートを強請っているみたいじゃあないか。口ごもっていれば、名前は少し残念そうに俯いた。



「そっか。一応、私もディオに作ったんだけど、好きな子から欲しいよね…。」



俯いた先には少し大きめの袋にラッピングされたトリュフのような物が見えた。いるに決まってるだろう!!!喉元まで出かけた言葉も何とか飲み込んだ。どうしてこんな時ばかりしおらしくしているのか理解出来ないし、僕がこれだけ分かりやすい態度をとっているというのに、どうしてこの女は分からないんだ。苛立ちや焦りや喜びや、いろんな感情がない交ぜになって、結局僕は名前の手の中にあるチョコレートを乱暴に奪った。よく見たって、学校の女達が作っていたような手作り感溢れるちゃっちいチョコレートなのに、どうしてこんな物が欲しくて仕方がないのか、自分で自分が良く分からなかった。



「貰ってやるさ!君からのは特別だからなッ!」



本来ならもっとスマートに貰っている筈だったのに。本当に名前といると調子を狂わされっぱなしだ。恥を忍んで受け取ったチョコレートは、きっと他の男にも女にも配られた物の余りだろうに。嬉しい気持ちと悔しい気持ちで、複雑ではあるが、僕に渡す気があったなら、今はまだそれで良しとしよう。そっぽを向いているせいで名前の表情は分からないが、嬉しそうに笑う声が聞こえて、たったそれだけで満足だなんて、僕はどうかしてる。



「良かった。ディオのために作ったんだ、それ。他の人には別の物をあげたから。」
「は?」
「やっぱりディオは特別だし。皆と一緒じゃなくて、ディオだけに作りたかったんだ。」



こういうことを言うから、名前は本当に気に入らない。



(ディオ?どうしたの?)
(うるさいッ!)


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