jojo | ナノ




DIOは肯定以外認めない


初めて連れてこられた時は、転がる死体と目の前の恐怖にすぐ殺されるのだと理解した。逃げようにも手首は拘束されていたし、恐怖に足が竦んでいた。思考は怖いという感情だけを脳に伝達し、考えるという行為自体を放棄していた。けれど、私はこうして生きている。理由は分からない。本来殺される筈だった私が館の主の気まぐれで生かされているという事実だけが、私の知り得る全てだ。しかし、何も知らされず、何も知ることはなく、日々を恐怖して毎日を生き伸びているだけの人生など、死んでしまった方がましだったのかもしれない。臆病な私には、そんなことを決断する勇気も行動する覚悟もないのだけれど。今日も私言われた通り、食料となるであろう女を主の部屋に運ぶだけ。そんな女をこれから殺されるのに、と哀れに思いながらも、本当に哀れなのは、自分の命を優先して女を見捨てる自分なのだという真実には見ないふりをする。



「……連れて来ました。」
「あぁ、入れ。」



今日の食料は皆恍惚とした表情を浮かべて、喜んで自分の身を差し出した。私も最初に恐怖さえ抱かなければ喜んで死んでいけたのに。憐れむと同時に、女達を羨むことしか出来ない。部屋の中に入った女の後姿を見届けて、私は部屋から遠ざかる。



「待て。」



どくん、と心臓が跳ね、まるで鷲掴まれたような恐怖に支配される。何か気に触るようなことをしたのだろうか。それとも、私が目障りになったから殺すのだろうか。自然と震える体を抑えることも出来ず、返事も返せず、ただそこに佇んでいた。



「こっちに来い。」



この声は本当に私を呼んでいるのだろうか、なんて現実逃避を始めたところで、この場には女と私しかいない。勿論、私が見る限りの話ではあるけれど。深呼吸をして、まるでブリキの玩具のように軋む体を動かして扉の前で足を止めた。広い部屋には大きなベッドと、その周りに本が乱雑に置かれているだけの簡素な部屋が余計に人の生活と離れているような気にさせる。震える足を一歩前に出して、部屋に入り込めば、ひんやりとした空気が肌に触れて、薄暗い部屋に女と主の体が重なっているのが見える。小さく笑みが聞こえた後、主は女の首筋に顔を埋めた。まるで喘ぎ声のような、悦に入っている女の声が、少しずつ死に際の濁った声に変わる。じゅる、と血を啜り上げる音と、死体が床に放り出されるのは同時で、ぼとん、と鈍い音が部屋全体に響き渡る。



「お前が怯える必要はない。もっと近くに来い。」
「…私は、死体を片付けます。」



部屋に混じる血の匂いに、主の恐怖が支配するこの空間に、耐えられない。反抗にもならない意思を初めて示したが、楽しそうな含み笑いが聞こえるだけだった。



「ほう?だがしかし、そんな処理など他の奴にさせておけ。私に逆らうのか?」



淡い期待は奇しくも崩れ去る。最早私に選択肢も逃げ道も用意などされていない。どうしたらこの生き地獄から逃れられるのかと考える術も、今の私は持ち合わせていないのだ。


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