jojo | ナノ




リゾットの目を見ていたい


目を見ているのが好きだ。会話の時に目を合わせるとか、そういうことじゃなくて、観察してじっくり見ていたいという意味で、だ。
最初は自分の目を観察しているだけだった。鏡越しに片目だけをじっくりと観察していると、透明感があって、目を縁取る灰色が球体であることを実感した。光の加減で瞳孔が大きくなったり小さくなったりする変化は見ていて楽しいし、黒目の周りを覆う虹彩は目を凝らすと幾つもの細胞が浮き出ているみたいで綺麗だ。よく、綺麗な目を見詰めて、吸い込まれてしまいそう、なんて表現があるけれど、あれは虹彩のことを指していると思う。そんな風に、自分の目を見ていても飽きないけれど、アジトには自分とは違う目を持つ人が沢山いる。青、黄色、紫、赤。細かい違いは分からないけれど、青だけでも一色ではなく、水色に近かったり濃い青だったり、それぞれだ。皆見ていて楽しかった。特に青系統の色は海や空を連想させるからなのか、吸い込まれそうという表現が本当に似合うと思った。そんな中、最近はリゾットの目を観察するのに夢中だ。あの人の目は、なんというか、不思議だ。本来、赤い目の色というのはメラニンの生合成に係わる遺伝情報の欠損の関係からアルビノとセットのようなものだ。アルビノというのは色素が欠如した状態で、目に関しても色素の薄さから眼球の底にある血の色が滲み出ることで瞳孔や虹彩は赤になっているのである。しかし、リゾットの場合は違う。肌の色はどちらかといえば褐色寄りで誰が見ても特別白いということはない。それなのに目の色は赤い。リゾットの存在は、それだけ希少であることを示している。それに、あの虹彩と本来白くなっている角膜部分。そこが真っ黒なのだから物珍しくて観察せずにはいられない。リゾットの目の前を陣取って、その目をじっと食い入るように見詰めながら観察するのは今日だけのことではない。真っ赤な、燃えるような赤い色は、薄暗いアジトで妙に明々と光を放ってる。黒い虹彩部分は、透明感のある青とは違って、幾つもある筈の細胞は見えず、見事なまでに真っ暗闇。黒い絵の具で塗り潰したようなそれは、見る人を引きずり込んでしまうのではないかと本気で思ってしまう程だ。



「…楽しいか?」
「すっごく。」
「お前は、よく分からない奴だな。」
「リゾットには言われたくない。」



瞬きを繰り返して、溜め息を吐くと、視線を逸らすようにして顔を背けてしまった。ついでと言わんばかりに、私の体を押し返す。もう退いてくれということらしい。照れているのか、単純に見詰められるのが嫌なのか、時間が勿体ないのか、何なのか。リゾットはあまり長いこと目を観察させてはくれない。不満を漏らす私をいつも適当に宥め、立ち上がって仕事に戻ってしまう。その高過ぎる身長ではの、私がどんなに背伸びをしても間近でじっくり観察することは出来ない。



「しっかり見せてくれれば、もう邪魔なんてしないのに。」
「俺はそんなに暇じゃあないからな。」
「私はリゾットの目を観察するために暇を作ってるの!暇人とは違うんだから!」



人のことを暇人扱いして。むす、と不機嫌を露わにすれば、対して変わらない表情で、また適当にあしらわれてしまう。私の言ってることが分かってるんだか分かっていないんだか、曖昧な返事をして、仕事机に座ったリゾットは書類に視線を落としてしまった。基本的には、その人の間近で目を観察することが好きなのだが、今のように近くで見れない場合でも、こちらに視線の合っていない自然な目を観察することが、それはそれで好きだったりする。邪魔する意味も込めて、仕事をするリゾットの目をじっと観察した。



「じっくり観察されたら、折角飽きさせないようにしてある意味がないからな。」



不意に視線を合わせたリゾットが苦笑いをする。その意味が分からずに首を傾げると、まだ分からなくて良いと言われてしまった。それなら別にいいけれど、リゾットのことだ。そのうち教えてくれる気があるかは怪しい。ああ、でも、どうせ明日も目を観察しに来るのだから、その時にでも聞けばいいか。明日が駄目なら明後日、明後日が駄目なら明々後日。飽きない目を観察するついでに何度だって答えを聞いたらいい。


[戻る]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -