jojo | ナノ




暗チんとこのお嬢さん(小)


普段は仲良くしてる。別に衝突する理由なんてない。ギアッチョみたいに怒るのも、プロシュートみたいに世話を焼くのも面倒だ。だから、普段は一緒にいて、優しいお兄さんとして接してる。演技じゃあない。俺の中にだって優しさの面くらいあるんだ。その面を名前に見せているだけで、それだってちゃんと俺という一個人なんだ。きっとチームの皆だって俺と名前は仲が良いと認識しているに違いない。何もそれは間違ったことじゃあないが、たまに、無性に、どうしようもなく苛立つ。あの純粋さや無垢さに。



「おかえり。」



任務から戻るとテーブルに小さな明かりを灯して名前が何かをしている。大方報告書でも書いてるんだろう。濡れている髪が任務を終えてシャワーを浴びたばかりだと物語っていた。普段の俺なら、笑って名前の側に行き、風邪引いちゃうよ、なんて言いながらじゃれるように髪を拭いてやっただろう。普段ならの話だ。中に入るなり立ちつくす俺を、ちらりと視線だけ寄越した名前の目に心臓が跳ね上がった気がした。あの東洋人特有の、そして子供特有の目が、まるで俺の過去も未来も何もかも全てを見透かしているようで反吐が出そうだ。誰だって知られたくないことの一つや二つ持ってるもんだ。それを全部見られていると思うと、気分が悪いだろう。つまり、そういうことなんだ。気付いたら俺は名前の首を絞めていた。



「ぅ…!メロ、ネッ!?」



片手で持ち上げられるなんて、俺は意外と力が強かったんだな。いや、もしかしたら名前がまだ幼くて軽いだけなのかもしれない。他人事のようにそんなことをかんがえながら、抵抗する名前をぼうっと眺めた。あの目は、今は苦痛に歪んでいる。抵抗されるのが鬱陶しく、ギリギリと絞める腕に力を込めれば、だんだんと力が抜けているのが分かった。あっけない。このまま絞め続ければすぐにでも死ぬだろう。でもさ、暗殺チームなんてところにいるのに、安心しきって背後をガラ空きにしてる名前が悪いだろう?いつどこで寝首を掛かれるか分からないのに平気で無防備を曝け出すんだから。そうだよ。俺と同じ人殺しなのに良い子ちゃんを装っている名前の存在は凄く鬱陶しい。人殺しのくせに。俺は放り投げるように名前を床に叩きつけて、ソファーに腰をおろした。



「ゲホッ!ゴホッ!」
「教訓さ、教訓。少しは注意した方が良いっていうね。」



深呼吸を繰り返しながら、涙目になって俺を見詰める名前の姿に、その目に、最早先程のような苛立ちはなかった。その目には困惑の色だけが強く浮かんでいたから。

***

翌日になれば、それはもう大騒ぎだ。名前の首筋には、俺が思い切り絞めた手の跡が残っていたからだ。名前の心配やスパイなんかの可能性を考え始め、アジトの場所を移すか、という話になったところでネタばらしをしたら、物凄く怒られた。誰ってプロシュートにさ。何考えてるとか、なんで手を出したとか、まァ、いろいろ言われた気がするけど全部流した。面倒だし。真っ先にリーダーに怒られるかと思っていたけど、そんなことはなくて、終始俺のことをじろりと見詰めているようだった。何が言いたいんだろう。プロシュートみたいにハッキリ言ってくれてもいいのに。名前に視線を移すと、怯えてるんだか、困惑しているんだか、よく分からなかった。普通は前者なんだろうけど、ただ怯えているようには思えなかった。どこまでも可愛くないガキだ。

俺は女という生き物がどうにも好かない。自分の母親が碌でもなかったからなんだろうが、子供であっても大人であっても、女という生き物が好きじゃない。このチームに名前がきて、最初は普通だった。子供だし、別に女だからって同じ仕事をするだけ。それだけだった。けれど、幼児体験の呪縛というものは何時まで経ってもトラウマらしい。名前の存在が、いつしかストレスになっていた。そして、昨日、爆発した。それだけだ。きっと、それを知っているからリーダーは何も言わない。あくまでも推測の域を出ない俺の考えだけれど。さて、そんなことより俺はどうしようか。プロシュートに言われた通り、名前には近寄らないでおこうか。それとも、殺してしまってチームに疎まれようか。どっちも悪くない。寝転んだベットの上でゆっくりと目を閉じた。

***

あれから一週間。何だかんだ俺は行動を起こさずにいた。別に殺したっていいけれど、そんなことしたら組織に狙われて俺もすぐに死にそうだ。今更殺されるのが怖いという訳じゃあないが、未練くらいはある。だから、今回は名前に近付かないという方を選んだ。しかし、四六時中アジトにいる名前に出くわさない筈もない。何度か顔を合わせたけれど、俺は知らんぷりを決め込んだ。名前は何かを言いたそうにしていたけれど、結局のところ、言葉は選べなかったようだ。



「…メローネ。」



そんな日が更に一週間続いた夜中。俺は任務から帰って、名前がソファーに腰掛けていた。相変わらず部屋は小さな明かり一つに照らされて薄暗い。名前が俺の名前を呼ぶけれど、俺はそれを無視してシャワーを借りようと歩き出した。しかし、鬱陶しいことに何も言わず俺の後を追ってくる。手を出したのは俺なのに、なんで名前が申し訳なさそうな顔をするのか理解出来ない。首を絞められておいて、尚も話し掛ける意味が分からない。俺と名前は、本来なら立場が逆の筈だというのに。ふつふつとわき上がる苛立ちに、俺はまた本能に従って名前の首を絞めた。



「どうして着いてくるんだ?鬱陶しいんだよ、そういうの。」
「ぐ、ぅ……!」
「殺されたいのか?それなら口で言ったらどうだ?」



尤も、今の名前は簡単に言葉を発せるような状態じゃあないが。ギリギリと締め上げる腕に力を込めて、このまま首の骨でも折ってしまえば名前は死ぬ。もういいか。殺してしまおう。人を殺しながら生きるくらいなら、死んだ方が名前だってましだろう。俺もどうせすぐに組織の奴等に殺される。少し待っててくれりゃあ、一緒にあの世にいくくらいはしてやるさ。恨まれているだろうけど。すっかり抵抗のなくなった名前の首に力をいれて、殺してやろうと思った時、背後に名前のスタンドが見えた。その後は一瞬だ。俺の腕が反射して、ボキッと音がする。勢いで俺も名前も床に叩きつけられた。これは骨が折れてるな。妙に冷静な頭でそんなことを考えていれば、直後に背中を強かに打ち付け、俺は痛みに呻いた。



「ゲホッ、はぁはぁ、ゴホッ!メロ、ネ…!」



必死だなァ、なんて他人事のように名前の声を聞いていた。痛む腕を抑えるのも、打ち付けた背中に呻くのも面倒になった。なんでこんなことしてたんだろう。先程までの苛立ちなんて、まるで最初からなかったみたいで。もしかしたら、心が空っぽっていうのは今みたいなことを言うのかもしれない。思考は上手く働かず、しかし、バタバタと駆け寄ってくる音がして目を向けると名前が泣きながら俺の名前を呼んでいた。何度も何度も俺の名前を呼んで、何かを言い掛けては謝って。だから、それは俺なんだ。俺は悪い子なんだ。良い子のふりを装っているから、本当に良い子を目の前にすると苛立って自分の存在が居た堪れなくなる。そのせいで、癇癪を起した子供みたいに人を傷つけるんだ。



「ごめんなさいっ!メローネ、メローネっ!」



ぼたぼた、大粒の涙が顔に落ちて、まるで俺が泣いてるんじゃあないかなんて錯覚する。死ぬ訳じゃあない。それは、名前が一番分かっている筈なのに。俺と同じ、人殺しの癖にそれでもこんなに他人のために泣ける名前が羨ましい。これは嫉妬だ。名前みたいになりたかったのに、なれないから悔しかったんだ。その純粋さも無垢さも、全部俺が欲しいと思っていたものだったから。



「俺こそ、ごめんな。」



動く腕で名前の涙を拭ってやっても、俺を呼ぶ声も謝罪も涙も、全部止まることはなかった。こんなに泣かれたら、また俺がプロシュートにドヤされるな。苦笑いをしていれば、音を聞き付けたリーダーが怪訝そうな顔をしてこちらを覗き込んで、次の瞬間には病院に運ばれることになっていた。一応骨折だろうし、連れて行ってもらえるのは有難いが、闇医者は金額が高くて困る。何とか誤魔化せば経費で落としてもらえるか。車に運ばれながら、俺はそんなことを考えていたが、泣きながら俺に同行しようとする名前を止めるのにリーダーは必死なようだった。



「明日には戻るさ。その時、ちゃんと名前と話すよ。」

***

手術をする程のものではなかったことに、名前の優しさを感じた。腕にギブズをつけて布で括れば、後は一ヶ月後に治るのを待つのみだ。呆れたようなリーダーの表情に苦笑いで返せば、頭を撫でられた。落ち着いたか、なんて言葉つきで。俺はそれにどう返事をしたもんかと暫し悩んでから、うんと頷くだけに留めた。
アジトに帰れば、そこには相変わらずソファーに座った名前がいた。リーダーに背中を押されて、俺は苦笑いをしながら名前の側に行く。



「名前。」



俺の声にびくっと体を跳ねさせて、恐る恐る振り返った名前は目が真っ赤で、隈も酷い。というか、やつれてるって感じだ。徹夜でもしていたのだろうかと思った。俺は名前の隣に座って、その顔をよく見詰めた。少しでも視線を下げれば、首筋にくっきりと手の跡が残っている。



「メローネ、ごめんなさい。スタンドなんて使うつもり、なかったのに。」
「何言ってんだ。名前のは正当防衛だろ。何も悪いことなんてない。」
「でも、痛い。骨が折れた?手術は?」
「手加減してくれたんだろ?手術は必要ないし、一ヶ月もすれば治る。」
「ごめんなさい。」



またしてもぼろぼろ泣きだしてしまった名前に、なるべく優しく頭を撫でてやる。名前はこんなにも感情を表に出すような奴だっただろうか。こうしてみると、ただのガキだ。こんなガキに全てを見透かすなんて出来やしない。寧ろ、何も知らなくて怯えているだろうに。俺は自分の勘違いで、名前に酷いことをしてしまったようだ。



「謝るなよ。」
「だって……だって……!」
「俺の方こそ、ごめん。」



ぎゅうっと小さな体を抱き寄せた。内心では、何度も何度も名前に謝っているのに、言葉は出てこない。まるでたかが外れたかのように、涙が止まらなくなった。なるべく苦しくないように、それでもきつく抱き締めてやれば、名前が俺の真似をするように優しく頭を撫でた。小さい手だ。これからは、こんな風に癇癪を起さなくても良さそうだ。頭を撫でる優しい手付きに俺はゆっくりと目を閉じた。


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