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リゾット


近距離型のスタンドは暗殺には向かないと個人的には思っている。近付かないと殺せないなんて、暗殺の意味を辞書引いて調べてこいという話である。しかしながら、案外暗殺というものは近距離で行われる場合も少なくなく、スタンド能力の使える私にとってもまた近くで暗殺する場合というのは少なくない。私のスタンドは簡単にいえば反射だ。あらゆる攻撃を反射出来る。それを利用して、ナイフを投げる時、少しばかり神経を集中させれば女の力であっても弾丸のようなスピードでナイフが弾かれたように飛んでいく。それが心臓部や喉元、運よくどこかの脈なんかに刺されば、簡単に人は死ぬ。元々近距離型だから、例え接近戦に持ち込まれたとしても応戦できる。今日もそうだ。ターゲットが一人になる時を張り付いて根気よく待つ。一人になった瞬間に目の前でナイフを投げた。叫ばれると面倒なので、叫び声があがるよりも先にすぐ近くまで走って口元を布で覆った。布の奥からくぐもった声だけが漏れ、胸元からはだらだらと血が流れる。暫くそうしていれば、まともに酸素も吸えなくなり、くたりと体を床に預けた。脈を確認して口に宛てていた布をポケットに詰め込んで足早にその場を後にした。



「(もう日付が変わってる。早く、帰ろう)」



壁に掛けられた時計は既に12時を回っていた。何時間も意識を集中していたせいで少しばかり疲れているような、そんな気がした。早く帰って寝たい。その一心で部屋から一歩足を踏み出した。しなしながら、どうやら今の人間は囮らしい。部屋を出た瞬間に銃を抱えた人間が視界に映る。そして、私が出てきたことを合図に銃を打ち鳴らした。私は咄嗟にスタンドを発動させ、それら全ての銃弾を弾き返せば、今度は無差別に弾丸が宙を舞った。全く私には当たらないけれど、私のスタンドによって弾かれた弾丸は打ち鳴らしている人間に当たる。少しずつ少なくなる生きた人間が最後には誰一人いなくなる。数少なくなった弾丸が壁や死んでいる人間にのめり込み、最終的に宙に飛び交う弾丸はなくなった。弾丸だけでなく、返り血すら浴びない私は絶望の色を見せて人間という性をありありと示して死んでいった死骸を見詰めながら少しばかり羨ましく思った。



「終わったのか?」



別のターゲットを殺しに行ったリゾットが壁に凭れながら帰りを待っていた。自分とは違って返り血だらけだ。スタンドの関係もあって、リゾットはよく血まみれになっている。最初こそ怪我でもしているのかと驚いたが、ほとんどが返り血なのだから流石というべきか。



「終わったよ。」
「発砲音が聞こえたが?」
「囮だったみたい。外で待ち伏せされてた。でも、平気。」
「そうか。確かに今回はいやに護衛が多かった。情報が漏れていたな。」
「組織の中にスパイがいたのかな?でも、もしかしたら一緒に死んだかもしれない。顔、分かんないし。」



鮮血がだらだらと流れる死体をちらりと視界に入れる。リゾットも私の視線に合わせて死体を見詰めるが、すぐさま自分の足元に落とす。私もそれに合わせて視線を落とせば、リゾットの太腿辺りからは死体と同じようにだらだらと血が流れていた。私は瞬時にびりびりと腕の布を破って傷口に押し当てる。簡単な止血のつもりだ。きつめにぎゅうっと結び目をつくれば、短く呻き声が聞こえる。薄い布にはじわじわと血が滲んできている。



「…グラッツェ。」
「早く帰ろう。手当てしなくちゃ。」



リゾットの体を支えるようにして立ち上がる。あまり負担を掛けないようにと思っての行為だが、完全に体重を掛けられると重い。何キロあるのか分からないが、中々一歩を踏み出すことが出来ない。暫くの間、二人で黙ったままその場に立ち竦んでいれば、それに苦笑いしてリゾットが離れた。



「大丈夫だ。一人で歩ける。」
「…ごめん。」



気にするなと言って頬に触れられた。最近になって知ったことだが、この人は意外とスキンシップが激しい。いや、プロシュートやメローネに比べれば少ないが、まぁ、なんというか、一般男性並みにスキンシップをするということだ。ぼうっとリゾットの行動を眺めていれば、頬にぬるりとした感触を感じて、血がついているのだと気付いた。リゾットは慌てて手を引っ込めてしまったが、私はその手を取って再び頬に当てた。別に血なんてどうでもいい。冷たくても、しっかりと人間の体温を感じれることの方が、今の私には重要なことだった。



「汚れるぞ。」
「今更だよ。」
「名前には血がついていないように見えるが?」
「いっぱいついてるよ。見えないだけ。」



流れた血の分だけこびりついて、固まって、雁字搦めになって、もう動けない。けれど、この手で救ってくれるなら、私はまたいくらでも人を殺すだろう。差し伸べられる手だけが私を安心させてくれるから。


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