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酷い人


時折、任務から帰ると酷く憂鬱な時がある。人を殺しているのだから、当たり前といえば当たり前なのかもしれない。雨がザアザア降っているにも関わらず、私は傘もささずに裏路地を歩いて、濡れていることも煩い雨音も、まるで他人事のように思いながら、機械的にアジトに足を運んだ。自分の家に帰るよりも、広いけれど汚くて生きている人間が騒いでいた形跡のあるアジトの方が、何となく落ち着くからだ。気付けば私はアジトの扉前にいて、自分の掌を見詰めた。べっとりついていた筈の血は雨で洗い流されたらしい。流石にドアノブに血糊がついていたら嫌だろう。良かった、なんて少し安堵しながら中に入った。しかし、今日は運が悪かった。憂鬱な気分になってることも、雨が降ってることも。全部全部悪かった。中に入ってから気付くなんて、遅過ぎた。



「あっ!はぁ、ん…っ!」



性に疎い訳ではない。こんなあからさまな喘ぎ声を聞かされて、中で何が起こっているのか分からない訳でもない。しかし、自覚すると同時に強烈な吐き気に襲われた。別にセックスとか、そういう行為が嫌いとか気持ち悪いとか、そう思ったことはない。ただ、強姦とかそういう話は大嫌いだった。だからと言う訳ではないが、メローネのスタンドもあまり好きじゃないし、嬉々としてデリカシーに欠ける話を振ってくるのも好きじゃなかった。しかし、好きじゃないだけで、こんな風に酷い吐き気に襲われたことなんてない。実物とは違うものなんだ、なんてどこか冷静な自分が考えるが、込み上げてくる物が今にも出て来てしまいそうで、私は急いでアジトを出て、一目散に家へと走った。

***

結局、チームの誰がアジトに女を連れ込んだのか知らないけれど、妙にこびり付いてしまった喘ぎ声のお陰で疲れているにも関わらず、よく眠れなかった。何となく一人で気まずい思いを抱えたまま、報告書を届ける為に仕方なしにアジトへと向かう。



「あれ?メローネ一人?」
「ん?あぁ。皆出払ってるよ。」



アジトに足を運べば、いたのはリビングでパソコンを弄るメローネだけだった。リーダーであるリゾットに届ければ、任務は完全に遂行される訳だが、肝心の彼はいないようで。どうしたものかと立ち竦んでいれば、パソコンから顔を話してこちらに顔を向けた。



「名前、昨日アジトに来たでしょ?」



一瞬だけ心臓がひどく跳ねたような気がした。別に私が何かした訳ではないのに。同時に昨日のあれはメローネのせいなのだと悟った。こびりついた喘ぎ声を頭から叩きだして私は努めて何でもないような表情で溜め息を吐いた。



「アジトの前にいたよ。それがどうかした?」
「しらばっくれなくてもいいよ。俺のせいで入れなかっただけでしょ?」
「…そうだね。」



確かにチームの誰が連れ込んでいたのか気にはなっていたけれど、だからといって何も言わなければ忘れたし、寧ろ何も言わないものだと思っていた。思わず目を逸らした。昨日のセックスをメローネがしていたのだと思うと、何だか余計に気持ち悪くて目を合わせていられない。スタンドだけじゃなくて、自分自身でも女を物みたいに扱うんだな、なんて、仲間に向かって思う感情じゃないのかもしれないけれど嫌悪感にも似た感情が込み上げてきていた。しかし、次の瞬間には腕を引かれ、リビングに備え置かれていたソファーに体を押し付けられて、目の前では薄ら笑いを浮かべたメローネがいた。



「名前ってさ、処女だろ?」
「………。」
「大丈夫。俺上手いし。昨日の女の声だって聞いてただろ?」



気持ちよさそうな声上げてただろ、だなんて。チームの皆と馬鹿みたいな話をする時と同じトーンで喋るものだから気持ち悪い。そんな話は聞きたくない。耳を塞いで目も閉じて、そのまま現実逃避をしてしまいたくなる。しかし、目の前にはメローネがいて、いつもと同じ調子で私の上に覆いかぶさっていて。抵抗したら、逃がしてくれるだろうか。泣いたら、止めてくれるだろうか。きっと答えは全部ノーだ。こんな生業をしていて、愛する人となんて思ってはいない。それなら、少しでも知っている人が初めての方が運がいいかもしれない。腹の辺りからするりと侵入した手が肌に触れて、久しぶりに生きている人間の体温を感じ私は目を閉じた。


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