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DIOがトリップしてきた


家に変な人が住み付いた。正確には人ではなく吸血鬼だという。食事はしなくても確かに平気そうだが、定期的に血を飲まないと腹が減ったと喚いてうるさい。嘘だと思って昼間にカーテンを開けたら腕が一本消滅して本当に驚いた。牙も生えてるし、力も尋常じゃないくらい強い。そんな化け物と一緒に住んでいるのだが、慣れてしまえばどうということはない。今までの日常に、変なのが一人増えただけだ。夜になってから家に帰ると、すっかり馴染んでしまって逆に家にいないと違和感を覚えるようになってしまったのだから何とも複雑な気分だ。



「遅かったな。」
「うーん、ちょっとねぇ。」



最初こそ人間とは違うと思っていた私だが、こうしてこたつに入って寝転んでいる吸血鬼を見ていると、こいつ本当に吸血鬼かよと思わざるを得ない。側に鞄を置いて私もこたつに足を入れる。図体が無駄にでかくて足が伸ばせない。元々一人暮らし用のアパートだし、それに合わせた家具なのだ。いつだったか195pあると言っていた体が邪魔でしかない。だいたい吸血鬼は普段から体温が低いのだから、わざわざ体を温める必要ないだろう。



「ちょっとは退けてよ。寒い。」
「これしきで寒いとは、人間は軟弱だな。」



ぐいぐい体を蹴るのだが、少し鬱陶しそうにされるだけで退く気はないらしい。確かに、こたつに足さえ突っ込んでいれば暖かいけれど、私は足を伸ばしてもっとのんびりしたい。仮にも住まわせてやってるってのに、この態度はないだろう。



「もう、仕方ないなぁ。」
「む、どこに行く?」
「お風呂だよ、お風呂。DIOが邪魔でこたつに入れなくてこっちは凍えそうなの。」



そそくさと部屋を後にして風呂に湯をはった。その間に、食器洗ったり掃除したりしていれば、あっという間に浴槽はいっぱいになる。いそいそとお風呂に入れば、先程まで冷たくなっていた体がじんわりと温まってくる。そこまで大きな浴槽ではないけれど、私が一人で足を伸ばす分にはギリギリ平気。全身の力を抜いて浴槽に体を預けたところで、突然お風呂のドアが開いた。



「……何してんの?」
「私も入ろうと思ってな。」
「……私が入るって言ったよね?」
「別に構わないだろう?」



構うに決まってるだろうが。アホか。マヌケか。邪魔だと私の体を押し退けて浴槽に入ろうとするDIOが意味分からないくらい鬱陶しい。しかし、DIOは問答無用に私の体を後ろから抱き締めて湯船に浸かる。そもそも、DIOの体ではこの浴槽に例え一人で浸かったとしても狭いというのに、二人で入る意味とは。案の定、私の後ろで浴槽に身を預けているDIOが狭いと文句を言う。



「文句言うなら最初から入らないでよ。頭悪いの?」
「私はヒューハドソン大学主席だぞ。」



どこだよ。聞いたこともない大学名を出されても、こっちはチンプンカンプンだ。まぁ、どこであろうと大学の主席ということは頭が良いことに変わりはないだろうが。仮に、それだけ本当に頭が良かったとして、DIOの頭が良過ぎて逆に意味が分からに現象に陥っていることになるのだが、そんな筈はない。そもそもDIOは常識に欠ける。少しでも常識のある人間であれば、こんな行動はとったりしないだろう。まさかとは思うが、下心でもあるのだろうか。じろりと後ろを向いて睨み付けた。馬鹿にしたように鼻で笑われた。悔しい。



「勘違いするなよ。お前のようなちんちくりんに手を出す程困っていない。」
「ぶっ殺したい。」
「ほう?出来るものならやってみるがいい。」



偉そうに浴槽の縁に手を置いてハンデでもくれているつもりなのか。普通の人間であり力の弱い女が、筋肉の塊のような男相手に素手で殺せるとは思わないだろう。そうだろう。私もそう思う。誰だってそう思う。元より言葉の綾で、本気で殺そうなどとは一切思っていない。腑に落ちないが、もう何もかも面倒になって筋肉だらけの固い体に身を預けた。



「固い。」
「お前こそ文句を言うな。このDIOと風呂に入ることを望む女共は巨万といるのだぞ。」
「えぇ……。私なら巨乳のお姉さんを侍らせてお風呂に入りたいなぁ。」



狭いし固いし。どうしてこんな男と風呂に入りたいと思うのだ。確かに良い体だとは思うけれど、それとこれとは別だ。どうせ触るなら、固い筋肉だらけの体よりも、女特有のふっくらした柔らかさの方が断然良い。特に胸が大きいのは良い。胸枕とかして欲しい。そんなことを思ったところで、実際に私が預けているのは固い筋肉である。



「贅沢な奴だ。」



少し不服そうな声が聞こえる。どれだけ自分の体に自信を持っていたんだ、この男。ちらりと振り返ると、むす、と不機嫌そうな顔が目に入った。これしきのことで機嫌を損ねないで欲しい。やれやれ、と溜め息を吐きそうになるが、なんとかそれを押し込んだ。



「仕方ない。ほら、頭洗ってあげるから。」



タオルを体に巻き付けて浴槽から出る。いくら貧相な体と言われようと、羞恥心はあるのだ。浴槽の縁に置いてあるDIOの腕を掴んで早くしろと促した。



「ふん、いい心掛けだ。」
「前を隠すとか出来ないの?」



流石に視線を逸らすけれど、風呂に入って来た時と同じようなことを仕出かしおって。こいつ本当学習しない。無理矢理風呂椅子に座らせてからシャワーをかける。シャンプーハットなどは勿論ないので、顔に掛からないように手を宛てながら注意はするけれど、まぁ、掛かったら掛かったで仕方ない。大人なんだし耐えてもらおう。



「おい、雑だぞ!」
「もういい大人なんだから、それくらい我慢我慢。」
「WRY……。」



シャンプーを掌で伸ばしてから髪に塗りたくって、少しずつ泡立てる。普段は遠い筈のつむじが見えるのは何だか新鮮だ。触れたことなどなかった綺麗な金色の髪は案外繊細で、図太い神経で傲慢な態度をとるこの男とは思えない様な手触りだった。



「どこか痒いところある?」
「ない。」
「じゃあ流すから目瞑っててね。」



再びシャワーを手にしてから、先程よりも丁寧にシャンプーを流す。人に頭を洗ってもらうのって気持ち良い。それは勿論この男も例外ではないらしい。先程の不機嫌さなど微塵も感じさせずに、鼻歌でも歌いだしそうだった。現金な奴。流し終えた後は同じ要領でリンスをして流す。気分は野良猫を綺麗にしてやったような、そんな気分だ。



「悪くなかったぞ。」
「そりゃあ良かった。」
「次からも頼んだぞ。」



こいつはつけ上がらせてはいけない部類の奴だった。



(いい加減毎日毎日風呂入って来るの止めて!ゆっくり出来ないでしょ!)
(知ったことか!早く洗え!)
(それくらい自分でやれ!)



―――
落ちがないとはこのことか。


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