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ディエゴ


初めて恐竜を見たときは、それはもう驚いた。腰を抜かして立てなかったし、瞬きも忘れるくらいに魅入っていたと思う。ずいっと恐竜の顔が近付いて、低く唸るような声がすぐ近くで聞こえたにも関わらず、だ。



「……ディエゴ?」



この時、私は恐竜がディエゴだとは思っていなかった。ディエゴはどこにいった?そういった意味で彼の名前を呼んだのだが、その名前に恐竜が反応を示したものだから驚いた。そんな訳がないと自分の中で思い浮かんだ仮定を必死に否定するように頭を振った。



「ディエゴ?」



今度は恐る恐る、恐竜に探るように。じいっと射殺さんばかりの瞳を見詰め返せば、恐竜もじいっと物静かにこちらを見詰め返す。この時、ほぼ確信したといってもいい。この恐竜はディエゴだと。そして、更に確信を持ったのは、後ろの方にちらりと見えた尻尾に、これでもかと主張するDIOという彼の愛称を見付けた瞬間だった。



「ど、どうしたの!?なんで、急にそんな姿に!?」



そんなの至極真っ当な質問ではある。心配することもまた然り。そんな風にいろんな感情がない交ぜになり、一人で慌てていれば、近くにあったディエゴの口が大きく開かれた。一瞬で食われる一連の流れが連想出来てしまった私は一気に血の気が引いて、しかし動く事も出来ずに、固く目を瞑った。次の瞬間には、頬に生温い何かで撫でられるような感触。痛くはないけれど、少し気持ち悪い、なんて思いながら、そうっと目を開ければ、それは勿論ディエゴの舌で。心なしか、落ち着け、と呆れられているように感じた。



「あ、りがと、う……?」



唖然としてはいたけれど、妙に落ち着いてしまったのだから、私を私以上に知ってるディエゴは凄いな、なんて自分の能天気具合に自分自身でも呆れた。
そうっと手を伸ばしてディエゴの顔を触ってみた。なんだか、硬い。あまり触り心地は良くない。でも、ひんやりしていて気持ちいい。



「ディエゴはずっと恐竜のままなの?」



いつもの余裕綽々で自意識過剰で生意気なことばかり言う口は今、私が理解する言葉を発する事はない。それを分かっているのか、あまり唸る事もない。静かだし、人間の時より素直なんじゃないかと思う。尻尾なんかは特に抑え切れない感情が露になっているようで、撫でてあげると嬉しそうに揺れる。可愛いと思う。でも、ずっとこのままなのだろうか。別にディエゴなら人間だろうと恐竜だろうと構わないけれど、会話が出来ないのは少しばかり寂しい気もする。
顔を撫でていた手が自然と止まってしまった。同時にぱたぱたと揺れていた尻尾も地面について動かなくなった。



「もう、人間には戻れないの?」



俯くと大きな足が見えた。人間とは全く違う。爪とか、足の数とか、皮膚だとか。なにもかもが違う。
もし、ディエゴが人間に戻れなかったら、どうしよう。一緒に買い物とかご飯を食べたに行ったり出来ないし、手も繋げない。それに、抱き締めてももらえない。何時もみたいに悪態をつくこともないし、好きも、愛してるも言ってくれない。



「寂しいなぁ。」



じわりと、涙が溜まって視界がなんだかぼんやりしているようだった。何の準備も出来ていないのに、本当に君は何時も急なんだから。恨み言も、言葉にはならず、喉の奥底で止まってしまった。



「おいおい、何も泣く事ないだろ。」



おかしい。なぜかディエゴの声が聞こえる。ぽたぽた、溢れ返った涙が床に落ちる。すると、急に両頬を掴まれて顔を上にあげられる。あれ?



「ディエゴ……?」
「何泣いてんだ。」



目の前には確かに人間の方のディエゴがいた。ちゃんと人間の手で私の頬を掴んでる。体も先程の恐竜に比べれば小さい。人間だ。人間のディエゴだ。戻ってる。安心してまた涙が溢れそうになるのをぐっと抑え込んで、涙を拭った。



「俺が恐竜のままだとでも思ったのか?」
「そりゃ…。」
「ふん、そんなデメリットの方が多い事するもんか。俺はちゃんと後先考えてる。」



人間のディエゴは相変わらず可愛げの欠片もなかった。しかし、それに少し安堵する自分もいて中々に複雑だ。



「それにしてもいいものを見れた。まさかお前が泣くとはな。そんなに心配だったか?ん?」



ニヤニヤした顔が腹立たしい。今まで思っていた事すべてなかったことにしよう。一気に顔に熱が集中するのを感じて、ディエゴに向かって思い切り拳を振り上げた。簡単に避けられてしまうのが余計に私の中で苛立ちを募らせた。


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