jojo | ナノ




ジョナサンとえろ本


ジョナサンの部屋でエロ本を見付けた。決して彼のいない間に部屋を物色しようとした訳ではない。ただ、彼の勉強机の参考書を何冊か手にとってみたら間にあったのだ。私だってジョナサンから考古学の話を聞いているのだから、少なからず興味を持っている。どんな参考書でどんな内容なのか気になっただけだ。それだけだというのに、まさかエロ本が出てくるなんて思わなかった。しかも、内容がハードだ。他のを見たことはないけれど、ソフトなものではないと言い切れる。そこは流石イギリス人というべきなのだろうか。完全なる偏見ではあるけれど。暫しエロ本を前にパニックを引き起こしていた私は参考書を元通りに戻すことも、何事もなかったように飲み物を取りに行ったジョナサンを待つことも出来ず、お待たせ、なんて戻って来た彼に冷や汗を流しながらエロ本を持って固まっていたのだ。



「名前?一体なに、し……て……っ!?」



ジョナサンの焦り方が尋常じゃない。マグカップと美味しそうなスコーンの乗ったトレイを慌てて部屋にある丸テーブルに置いて、私の側まで来ると、目にも止まらぬ早さでエロ本を取り上げ自分の後ろに隠した。目を逸らしていたかと思うと、必死に何かを伝えようと口を開くも、言葉が見付からないよで口を開け閉めするだけに留まってしまった。顔は真っ赤だし挙動不審だし、こっちが悪いことをしてしまった気分だ。別にエロ本を見ていることとか、内容がハードな気がするとか、あのジョナサンが…とは思うけれど、咎めるつもりなんて一切ないのに。忙しなく視線を彷徨わせる彼を見ていられずに私は声を掛けた。



「あ、あの、ジョナサン?勝手に参考書見ちゃったりしてごめんね…?その、まさかあるとは思ってなくて…。」
「ちちち違う!違うんだ!これは僕のじゃあなくてジョセフが勝手に…っ!」



思い切り肩を掴むと勢いよく揺さ振られて目が回る。我に返ったジョナサンが謝りながら揺さぶるのを止めてくれたけれど、勢いが良過ぎて少しの間、頭がふわふわしていた。ジョナサンは廊下にエロ本を放り出して一度咳払いをすると私に向き直って気まずそうに視線を逸らした。



「ご、誤解なんだ。あれは本当に僕のじゃあないし、見てもいない。信じて欲しい…。」
「う、うん。信じる。」
「あれはこの前ジョセフが無理矢理僕に押し付けていったもので、その、僕も処分に困っていて…。決して隠そうとした訳じゃあないんだ!」
「うん、分かった分かった。」
「本当に中は見ていないんだ。し、紳士があんな、あんな、女性が自ら足を開いて陰茎を受け入れている写真とか、目隠しをして猿轡を加えた女性が扇情的に写っている写真なんて!」
「うん、それ見てるよね?」



誰も事細かにエロ本の詳細を教えて欲しいとは言ってないんだけどな。自ら墓穴を掘ったジョナサンが一瞬きょとんとした後に、どんどん顔色が悪くなっていく。先程とは打って変わって微動だにしなくなってしまった彼は、どこを見詰めているのか、焦点があっていないような虚ろな目をしている。



「あ、あのね。別にエロ本を読んでたっていいんじゃない?私は気にしないよ?寧ろ男性はそういうの見るのが普通なんだったら別に…。」
「そっ、そんなっ!あんなの見るなんて紳士としてあるまじき……あるまじき、行為、だよ……っ!」



内容を思い出して顔を赤くしたり、自分の行動に絶望して顔を青くしたり、忙しいなぁ、なんて暢気に考えてしまった。しかし、今にも泣き出してしまいそうな顔をするので、今度は私が慌てる番だ。



「な、泣かないで!紳士だって子供を産むにはそういうことしなくちゃいけないんだから、ジョナサンが異性に興味を持つのは普通のことだよ!」
「うぅ、そう、かな……?紳士でも……紳士でもかい?」
「紳士でも!」



内容がちょっとエグイよね、なんて言ってしまったらきっと暫く彼は立ち直れないだろうから口が滑っても絶対に言えない。落ち着く様にと背中を撫でてあげると、ぎゅうっと力強く抱き締められるので、私もその広い背中に腕を回した。こんなにも体は大きいのに、縋り付いてくる態度は子供そのものだな、なんて言ったら拗ねてしまうかもしれない。



「僕を見損なったかい?軽蔑したとか、気持ち悪いとか…。」
「エロ本くらいでそんなこと思わないよ。」



紳士は大変なんだなぁ。いちいちこんなエロ本如きで心を痛めなくちゃいけないなんて。宥める様に背中を撫でると多少落ち着いたようで。少しだけ体を離すと、眉をへの字に曲げたジョナサンが照れくさそうに笑っていた。



「良かった。名前に嫌われるんじゃあないかと思って、怖かったんだ。」
「まさか!大袈裟だなぁ。」
「でも安心したよ。じゃあさっそく目隠し、してもいいかな?」
「意味が分からないよ?」



私の両腕をがっしりと掴んで、先程とは打って変わって満面の笑みのジョナサンに嫌な予感しかしない。抵抗しようと手に力を入れても、ほとんど無意味に終わった。それなのに彼はずるい。たったそれだけの些細な抵抗に、彼はまるで捨てられた子犬のような目で私を見詰めて、切なそうに私の名前を呼ぶ。これでは抵抗らしい抵抗も出来ないじゃないか!



「……嫌かい?」



駄目押しまでしてくるものだから敵わない。絶対に確信犯だろうと思いつつも、惚れた弱みと言うやつか。結局は否定など出来ずに流されてしまうのだ。


[戻る]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -