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承太郎とスタプラ


幽霊とかお化けとか心霊現象とか、そういう類の話を聞くのは好きだった。しかし、残念なのことに#私には霊感というものがなく、実際に体験することも見ることも今までの人生では経験したことがない。だからこそ、長期の休学から戻った空条君の後ろにぴったりとくっついている、まるで背後霊のようなものを見た時は心底驚いた。けれど、少しわくわくしたのも事実。
空条君とはクラスが同じだったけれど話したことはなかった。あんな有名人で常に人に囲まれているような人と、凡人である私に接点なんてある筈ないし、別に会話をしないからって生活に支障をきたすことなんてなかったから、それでいいと思っていた。けれど、幽霊が後ろにいるとなれば話は別だ。空条君に何かあっては危ないし、まずアレが空条君に見えているのかどうかも気になる。見えているのであれば、空条君の今までの霊体験というのも聞いてみたい。そんな好奇心から、背後霊に気付いてからはチラチラと彼を目で追っていた。今日も彼の後ろには幽霊が佇んでいる。ほとんどは彼の背中にいるが、時には横に移動したり正面で空条君の顔を覗き込んでいたりする。ほとんど、と言っても普段は背後にはおらず、どういう理由で表れるのかもよく分からない。たまたま、暇な授業中とか、掃除の時間とか、休み時間とか、そういう時には大抵いるように思う。ここ何日も見ていて分かったことだ。ここで問題になるのが、どのタイミングでどんな風に空条君に話し掛ければいいのか、ということである。学校にいる間に中々チャンスというものが巡ってこない。うだうだしている間に何時も放課後になってしまう。それは今日も同じだった。何時になったら空条君の背後霊についての話が出来るの「おい。」



「?」
「おい、聞いてんのか。」
「えっ!?」



目の前には私の中で話題の空条君が立っていて、私のことを見下ろしていた。まさか彼から声を掛けられるとは夢にも思っていなかったので、驚いてしまった。空条君はといえば少し殺気立ってる感じがする。私ですら分かる殺気に、近くにいる取り巻きが気付かない筈はないのだが、尚も空条君を取り囲んで騒ぐクラスの女子には最早尊敬してしまう。



「話がある。ついてこい。」



クラスの子に鬱陶しいと一括して空条君は教室を出て行った。私は女子の突き刺さる視線に耐え切れずに急い支度をして鞄を引っ掴むと、慌てて空条君の後を追った。

***

ついてこい、なんて言った割には空条君はただ普通に道を歩いているだけで、目的地に向かっているのかどうかさえよく分からない。私は彼の2,3歩後ろを歩きながら、その広い背中に佇む背後霊を見詰めていた。そうすると時折振り返った背後霊と目が合うのだ。なんだかそれが面白くて、すぐに逸らしてしまう背後霊とは反対に私は食い入るように彼の背中を見詰めた。



「お前、見えてるのか?」
「ん?」
「スタンド使いか?」



確認するように、はっきりした発音で言う空条君。自分の背中をチラリと見てるあたり、そういうことだろう。よく分からない単語もあったがこの際スルーしてしまおう。何よりも、まさか私みたいな霊感0の人間がこんな台詞を聞ける日がくるなんて思わなかった。そう考えると高揚する胸の高鳴りを抑え切れず、私は空条君に詰め寄った。



「見える!見えるよ!まさか空条君もこの背後霊が見えてるの!?」
「背後霊?」
「そうだよ!人間みたいだよね!髪が長くて、彫が深くて、でも人間の肌の色してなくて「ま、待て。」」



空条君が控えめに私の肩を押し返す。思わず興奮してしまった。苦笑いを返して一歩身を引けば、彼は帽子のつばを掴んで目深く被り直した。まぁ、身長の低い私からすれば、彼の顔は下から覗けば簡単に見えてしまうのだけど。



「俺の後ろにいるのと特徴は一緒だが、こいつは背後霊じゃあない。」
「背後霊じゃない?」



意味が分からないが、その後に説明されたスタンドという概念に、空条君が操ってくれたことで納得が出来た。空条君は私をスタンド使いとかいう人達と勘違いして警戒していたらしい。あまり良い思い出がないのか、なんなのか。先程までの殺気はすっかりなくなって、何時もの威圧感に戻った。しかし空条君は休む暇もなしになぜ私にスタンドが見えるのかという疑問を抱えて忙しそうだ。私はといえば、まるで他人事のようにスタンドが見えるという事実を受け入れていた。突然のことであったし、それに、どうして見えるのか?なんて根本的な疑問に関しては正直どうでも良かった。幽霊とか、そういう類じゃなかったのは残念だが、スタンドという未知の概念は私の好奇心を大いに動かしてくれたからだ。



「ねぇ、そのスタープラチナっていうの、しっかり見せてくれない?さっきから、すぐに目を逸らされちゃうんだよね。」
「……ほう?」
「空条君が歩いてる最中に何度か目があったんだけど、すぐ逸らされちゃうんだ。嫌われてるのかな?」



変なことを言った覚えはないけど、空条君が思いの外食いついてきたので、まぁ、良かったとしよう。これでスタンドというものがしっかり見れるのだ。もしかしたら、これは霊媒師や霊感のある人達よりもレアな体験じゃないだろうか。わくわくしながらスタープラチナが表れるのを待った。



「スタープラチナ。」
「わぁっ!」



一言名前を告げた空条君の正面にスタープラチナは表れた。違う印象。堂々としていて、しっかりと私の目を見詰め返してくる。その瞳から考えを読み取ることは出来なかったけれど、まるで一切傷のない宝石みたいな瞳に、吸い込まれてしまいそうだと、本気で思った。彼はただ空条君の側に佇んでいるだけで一切喋りもしないけれど、それが余計に神秘的で。私が彼の魅力に引き込まれるのに時間は全く掛からなかった。



「凄い…。綺麗だね。」
「…そんなことを言われたのは初めてだ。」
「そうなの?」



他の人は見る目がないんだね、と付け加えれば、何がおかしいのか肩を震わせて口角を上げて空条君が笑っていた。手を伸ばしてみれば、透けるのかと思いきや、人間の感触とは違うが、ひんやりとした冷たさが掌全体に広がる。触れるのか、と思いながら筋肉のようなしっかりした腕をぺたぺたと触った。そのまま肩に、そして胸に触れれば、横から伸びてきた空条君に腕をとられてしまった。



「スタンドに触れると俺にもその感覚が伝わる。それ以上はくすぐってぇから離せ。」
「お、おぉ、そうだったのか。」



知らなかったとは言え、ちょっと大胆なことをしてしまったのではないか?今更ではあるが、少し恥ずかしくなって変な喋り方になってしまった。これまた楽しそうに笑う空条君に余計に羞恥心が込み上げてくる。変な奴だと思われたかな。それとも、初対面の癖に馴れ馴れしいとか。自然と下がった視線には私と空条君の靴しか見えなくて、スタープラチナはやっぱり浮いてるのか、なんて変なことを再確認した。しかし、突然頭に触れた掌に顔を上げれば、スタープラチナが無表情のままわしゃわしゃと撫でてくれていた。



「え?え?」
「またな、名前。」
「え?あ、また明日!」



笑いながら去って行った空条君とスタープラチナを唖然としながら見詰めていた。やっぱり連れて行く所なんてなかったんだ、とか、スタープラチナに頭撫でられた、とか、空条君と明日も話せるからスタープラチナにも会えるのか、とか。一瞬のうちにいろいろ考えたけれど、総合すると私にとってはこれから楽しくなりそうだという結論が出るだけで。自然と緩む頬も気にせずに私も帰路に着いた。


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