sbms | ナノ
猫インゴ2

猫の習性とはよくよく困ったものです。ひらひらと風に揺らめく自分のコートでさえ気付けば夢中になって見詰めてしまいます。我に返って書類に目を落とすも、カーテンの揺れる様が視界の隅に映ってしまって、イライラしながら窓を締めました。全く集中出来ません。



「失礼します。」



煙草に手を掛けたところで、2度のノックをした後に名前が入ってきました。なんですか、もう書類が終わったのですか。これだから向こうの人間は仕事が早くていけませんね。ワタクシより頭一つ分は優に小さいであろう名前を見下ろして、手に持っている数枚の書類を見遣りました。



「書類です。」
「分かっております。」
「それなら一言言わせてもらいたいのですが、まったく進んでませんよね?書類。」



目敏く書類の束を見付けた名前は精一杯虚勢を張るかのようにワタクシを睨みあげました。ワタクシにこのような生意気な態度を取る小娘など、これくらいのものですから、普段でしたらそのままからかってやるのですが、生憎と本日ワタクシの機嫌が宜しくありません。ですので、ワタクシも名前を睨み返しました。暫くそうして睨み合っていれば、折れるのは結局名前の方で、溜め息を一つ漏らしました。



「体が心配だったら暫くお休みをもらった方がいいですよ。」
「そういう訳ではありません。」
「集中出来ないんでしょう?早く休んで病院に行くべきです。インゴさんが出勤している間はずっと仕事が回ってくる訳ですし、皆に説明すれば分かってくれますよ。シングルとマルチとめたって、ダブルが、うん、ちょっと忙しくなるかもしれませんけど、それでもエメットさんだってインゴさんのこと気にしてるんだし、少しくらいお休みをもらって休養を取る方が、って聞いてますか?」
「………っ!」



溜め息を漏らした時に揺れる髪の毛が目に入ってからというもの、どうもそれが気になって仕方がありません。名前の話などまったく耳に入ってきませんが、急にワタクシを覗き込んできた瞬間に揺れた髪の毛に、ほとんど無意識に手が出てしまいそうでした。そんなワタクシを怪訝そうに見詰めながら、まぁ、お好きにして下さい、なんて言って後ろを向いてしまうものですから、思わず手が伸びてしまいました。

たしっ



「…………。」
「…………。」
「………あの、なに、してるんですか。」
「………いえ、なんでもありません。」



名前が振り返ると同時に手を引っ込めましたが、相変わらず名前は怪訝そうに眉をひそめています。ゴホンとわざとらしく咳払いをして視線を逸らしたせいでしょう。その時名前がニヤリと笑ったことなど、ワタクシは知りません。



「インゴさんインゴさん。それってまさか猫の習性ってやつですか?」
「…そうだとしたらどうするんですか。」
「いや、あのですね、これは家に元々あったもので、別に買ってきたとか、ふざけてるとか、そういうことじゃないんですけどね。」



なにやらいい訳を並べながら制服の胸ポケットからなにかを取り出し、その取り出した物に少なからず殺意を覚えました。



「じゃーん!猫じゃらし!」



なにがそんなに楽しいのか、にこにこと普段見られないような満面の笑みを浮かべながら、ワタクシの目の前に猫じゃらしを見せ付けてきました。期待の籠った瞳でこちらを見詰めてきておりますが、ワタクシはサッと猫じゃらしと名前の瞳から逃れるように後ろを向いて書類の文字を追うことにしました。しかしながら、先程まではワタクシの体を案じている様子の名前でしたが、用意周到に猫じゃらしなど持ってきて、心配しているのは嘘だったのですか、このアバズレが!
ちょこまかとワタクシの周りで猫じゃらしを振っては反応を楽しみにしている様子ですが、ワタクシが意地でもそれに反応しないとなると、つまらなそうに猫じゃらしを下げました。



「猫になったって言うから猫じゃらしが好物だと思ったのに……。」
「お前は馬鹿ですか。いいから早く持ち場に戻りなさい。」
「はーい。」



至極残念そうに胸元でゆらゆら揺れる猫じゃらし。気を抜いていたせいもあるでしょう。ゆらゆら揺れる猫じゃらしを見ていれば、猫の習性を取り込んでしまったこの体では自然と体が動くもので。

たしっ



「………。」
「………。」
「……す、すみませ「胸の上は駄目です」」



思い切り平手打ちを食らいました。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -