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変態な黒組

「大至急わたくしの所においで下さいまし!」



慌てたような、焦ったようなノボリさんの声がインカムから響く。切羽詰まったようにも聞こえたそれに走ってノボリさんがいるであろう執務室に向かった。
失礼かと思ったが、ノックもせずに部屋に入ると、デスクに座っているノボリさんと、目の前には金髪で長身の、男?



「ノ、ノボリさん?」
「ああ!名前様!よく来て下さいました!さぁ、こちらに。」
「え?あ、ああ、はい。」



私に気が付いたノボリさんが、側に来るよう促すので駆け寄る。一瞬金髪の男を見上げたが、目が合ってしまい咄嗟に逸らしてしまった。睨まれたような気が、する。なんでしょうとノボリさんに問えば、なにを言う訳でもなく、爪先から頭のてっぺんまで一つも見落とさないよう、じっとり私に視線を向けてくるから居心地が悪い。



「あの」
「どうですか。どう考えても彼女が適任でしょう?」
「Hum…お前の目は節穴でございますか?やはり逆でしょう。」



金髪の男はよく見るとノボリさんとそっくりな顔立ちをしている。(クダリさんともどことなく似てる)違いは金髪で煙草を吸って、ノボリさんより少し背の高いところくらいだろうか。話し方は若干キツイ気もするが、ノボリさんとほとんど同じ。そんな二人は私を挟んで、ああでもない、こうでもないと語り合っている。なぜ呼ばれたのかは知らないが、用がないのなら早く仕事に戻らないといけないのに。残業は真っ平御免だ。それなのに、二人の話はエスカレートして、時折私が口を挟んでも全く耳を貸してくれない。どうしようか悩み始めた頃、ノボリさんが肩に手をおいたかと思えば、ぐるりと半回転させられ、目の前には金髪の男。興奮しているのか、ノボリさんが掴んだ肩が痛い。



「見て下さいまし!この人を蔑んだようなやる気のない瞳を!これこそまさに人を罵るのに相応しい瞳でございます!」
「貶してるんですか。」
「お前はなにも分かっていませんね。そういう人間を屈服させ、服従させ、自分好みに調教する。もしくは生意気な瞳を快楽に溺れさせることこそ至高。」
「え?」



バチバチと火花が飛び散る勢いで睨み合う二人だが、話しに折り合いはつかないようだ。というか、なに?蔑んだ瞳って。ノボリさん私のこと、そんなふうに思ってたの?それに調教ってなに?金髪怖い。二人の間に挟まって縮こまっていると、金髪さんが携帯灰皿を取り出し、そこに煙草を押し付けて火を消した。携帯灰皿を持っているという事実に驚きつつ、びくびくしながらその様子を見上げていると、とっても今更自己紹介をされた。



「これは失礼しました。わたくし、英国でサブウェイボスをしております、インゴと申します。以後お見知りおきを、名前。」
「よ、宜しくお願いします。あの、どうして名前を?」
「常々ノボリから話は聞いておりますから。」
「ノボリさんから?」



なにを、話しているんだろう。今までノボリさんとは普通に上司と部下として接してきた筈だ。話題になるような取り柄がある訳ではないし。ま、まさか、なにかへまをやらかして、ノボリさんに負担をかけてしまっていたのだろうか。それとも出来が悪いとか、愚痴を?
次々と出てくる不安要素に怖くて振り返ることなんて出来ない。すると、ノボリさんの手に力が入るものだから、余計に怖くて絶対に振り返れない。



「インゴは名前様のことなどなにも知らないでしょう!見た目で決め付けるのが紳士と言えますか?」
「ノボリから話は幾度となく聞いております。見た目だけの判断ではございません。」
「これだから貴方とは反りが合いません。」
「ええ、それはワタクシもです。」
「あのー、そろそろ要件を……。」



ノボリさんがインゴさんに私のことを日々どう伝えているのか、もしくは愚痴っているのか、とてつもなく気になる。気になるが、なにやら勝手に険悪ムードになっている為にそうも言ってられない。恐持ての男二人が不機嫌丸出しとかお客様に見せられる顔じゃない。子供泣いちゃう。勇気を振り絞って出した言葉は思っていたよりも、うんと小さかった。



「ああ、そうですね。名前様を呼んだ理由はですね………ところで名前様。名前様はドSですか?ドMですか?わたくしはドSだと思うのですが。あの、名前様さえ宜しければ是非わたくしをそのおみ足で踏んで頂きたいのです!」
「え。」
「以前よりお話を窺っておりますが、ワタクシはどう考えてもお前がドSには見えません。寧ろドMでしょう?生意気なところもワタクシだけに跪くよう一から体に教えて差し上げましょう。」
「え。」



やだ、なにこの人達怖い。なにより、選択肢がドSかドMの両極端しかないことだとか、今まで普通に接してきた上司にドSだと指摘され、まさかMだったとか、仮にも初対面の人にドMとか言われて私のライフゲージが激減した。放心状態の私を余所にインゴさんがコートの懐から当たり前みたな顔して鞭を取り出す。その鞭が凄く使い込まれていて思わず後ずされば、ぐにっとノボリさんの高級そうな革靴を踏んでしまってすぐさま謝りながら足を退かした。それなのにはぁはぁ息を荒げたノボリさんが頬を赤らめて普段見たこともないような恍惚とした表情をしていた。怖い。



「ご、ごめんなさい!」
「さぁ!お早く!」
「え?」
「この期に及んでまだ焦らすおつもりですか?せっかく名前様直々に靴を踏むというご褒美を下さったというのに?ふふ、しかし、それも名前様から与えられるものだと思えばわたくし耐えられます!どうぞお好きな時に!」



こんな生き生きしたノボリさん初めて見たけど、正直一生見たくなかった。私の目の前で踏みやすいようにと床に座り足を広げている。踏まない。踏まないけど、ノボリさん私にどこ踏ませようとしてるの?そんな問答を繰り返していれば、すぐ傍らでピシッと鞭のしなる音が聞こえてびくりと体が縮み上がった。



「そんなことではまだまだ温いですね。焦らすより、自我さえ失う程に快楽を与える方が何倍も苦しく、見てる側は楽しいものです。」
「いえ、あの、私にそういう趣味はなくてですね……。」
「ああ、遠慮せずとも最初からそのようなやり方は致しません。まぁ、ドMが望むことなど最初からしてやるつもりもございませんが。」
「ドMじゃないです……。」



二人して私の話なんかこれっぽっちも聞きやしない。ノボリさんもインゴさんも目がギラギラしていて、バトルでしか見れない筈の本気が見え隠れしている。こんなくだらないことで本気出してどうするんだ…。そう思いながら私は本気で逃げる手立てを考えないと、そろそろ貞操が危ない。



「結局要件ってなんだったの……。」
「名前様がドSかドMで争っていたのでご本人に来て頂いて、どちらが正しいのか証明して頂こうと思っていたのでございます。名前様!遠慮などなさらずに!思いっ切り踏んで下さいまし!」
「ワタクシが踏んで差し上げますよ。嬉しいでしょう?名前。」
「いや………。」



ボソリと呟いた筈の声もノボリさんは息を荒げてうるさいくせに聞きとってくれたようで、ようやく要件を聞きだすことに成功した。成功したけど、わざわざそんなことで呼ぶな。



(変態!変態!変態!)
(ああっ!もっと罵って下さいまし!)
(いい度胸ですね)



―――
ノボリさんかインゴさんかということでしたが、二人で書いちゃいました。
変態=SかM
という安直な考えしか出来ません。



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