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S気あるインゴ

仮にも清掃員で女である私が、なぜこんな重い段ボールを持って、ギアステーションの入り口からバトルサブウェイの受け付けを何往復もしなければならないのか。直属の上司でもない黒い車掌を恨んだ。彼は私に嫌がらせをするのが趣味らしい。セクハラなんて朝飯前だし、今みたいにあきらかに男が運んだ方が効率のいい重い荷物だって私に運ばせる。この前なんか昼食買って来いとパシリにされた。



(くっそー!今度上司に言いつけてやる!)



たかだか清掃員の上司に、サブウェイボス程の権限があるなんてこれっぽっちも思っていないが、言いつけてなけりゃこんな仕事やってられない。不景気でなけりゃ私だって、こんな体はった仕事じゃなくて事務仕事してる筈だったんだ!息も絶え絶えに、何度往復したか分からないバトルサブウェイの受け付けに景品の入った段ボールを積み重ねていく。流石に疲れて腰を曲げながら、まるでおばあさんのようにとんとんと腰を叩いた。疲れた。あと何往復したらいいんだろう。



「ひゃ!」
「おや、名前でしたか。てっきり新しい景品かなにかかと思いました。」



そんな折に現れたのが、私に嫌がらせを毎日毎日飽きもせず続けるサブウェイボスことインゴさんが現れた。むにっとお尻を揉んだインゴさんの手付きはどう考えても確信犯である。というか、お尻と景品見間違えるって、そんな苦しい言い訳があるか。抗議の一つでもしてやりたいところだが、ここで噛みつけば彼の思い通りなので、あえて威嚇だけをすることにした。しかし、私の威嚇などなんとも思っていないのか、煙草を吹かしながら私を見下ろしてくる。私がポケモンかなにかだったら本当に噛みついてやるのに!



「ふぅ、少しは学習したようですね。しかし、お前に睨まれたところでなんともありません。それが威嚇のつもりでございますか?ワタクシにはただ怯えているように見えますが?」



喉の奥でくつくつと嘲笑われれば、かちんとくるのは当然だろう。



「私に構わないで下さい!あとセクハラすんな!」
「ですから、景品と間違えたと言ったでしょう。一度で聞き取りなさい。あと、ワタクシはお前の上司です。敬語も使えないような奴にはお仕置きが必要でしょうか?」
「嘘吐かないで下さい!毎日毎日自分のお尻を景品と間違われて堪るか!私の上司じゃないくせになに言ってんですか!」



景品の段ボールを挟み反論すれば、気に入らないといった風に眉に皺を寄せ、への字の口を更に曲げてそのギザっ歯で煙草をギリギリと噛んでいた。こ、怖くなんかないんだからな!私は正論を言ってるだけなんだから!
いくら積んであるといえど、私の身長より上には重たくて持ち上げられないので、せいぜい私の胸の高さしかない段ボール。ぐいっと簡単に顎を掴まれ、至近距離にインゴさんのしかめっ面。ごめんなさい、怖いです。凄く怖いです。



「生意気を言うようになりましたね。最初の頃など、なにをしてもいい声を上げて鳴くだけでしたのに。」
「ま、毎日セクハラ受けたら誰だって反抗します!」
「それが生意気だというんです。ですが、そうですね。反抗されればされた分だけ調教のし甲斐があります。」
「!?」



ふうっと煙草の煙を顔に掛けられて煙たいし臭いし目が痛い。インゴさんは開いている手で煙草を口から離し、そのまま床に捨てて高そうな革靴の爪先でぐりぐりと押し潰して火を消した。インゴさんがやっているというだけで、生きている訳でもないのに煙草がひどく痛そうに見えた。煙草なんぞを目で追っていたら、次の瞬間がぶり、と本当に噛みつかれてしまった。



「ん!?んー!」



抵抗しようにもびくりとも動かない。それをいいことにがぶりと噛みつかれた唇はちろちろ舌で舐められ、ちゅうっと吸い付かれる。言っておくが、ここはバトルサブウェイの受け付け。人が!いる!平日の昼間といえど、いない訳ではないのだ。少なくとも私の後ろには先程まで大変ねーなんて言って呑気に笑っていた受付嬢が二人程いる。



「んっ!ふ、ぁ…!」



思い切りインゴさんの腕を握ればようやく離してくれて。だがしかし、キスをした事実に変わりはなく、周りからははやし立てるように口笛やらなにやらが飛び交っている。生理的に流れそうになった涙を瞳いっぱいに溜めこんで、真っ赤になった顔を隠すことも出来ず、ぎろりと睨みつけても、やっぱり、なんてことなさそうに胸ポケットから煙草を取り出してそれに伴って一緒に取り出したライターで火をつけていた。先程とは打って変わって上機嫌だ。



「まだまだ可愛らしい声で鳴くじゃないですか。」



顔から火が出そうだったので、残りの段ボールなど無視しておばちゃん達が休憩しているであろう、本来の仕事場に駆け込んだ。



(うわあああん!おばちゃーん!インゴさんがー!)
(あら、今日もなにか進展があったの?)
(なになに?なにがあったの?名前ちゃん!)
(楽しまないで下さいいいい!!!)



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