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しょたボス

子供が苦手な訳ではない。だからといって、そこまで好きな訳でもない。扱い方が分からないし、子供に合わせるのもなんだか…。それなのに、どうして一人称が近所の男の子を幼稚園から迎えに行っているのか、といえば、そりゃ親に頼まれたからというのもあるが、



「インゴ君とエメット君を迎えに来ましたー!」
「「名前!」」



私がその子を気に入ったっていうのが大きい。
パタパタと軽い足音を響かせて私の足元に寄ってきたのは近所のお金持ち夫妻の息子さん。忙しい夫妻に代わって仲良しの家が息子さんを迎えに行くのだけど、暇でしょ?なんて理由で向かわされているのだ。最初こそ学校あるし暇じゃないよ!なんて反抗していたけど、今では自ら進んで迎えに行く程気に入ってしまったから、まぁ、よしとしよう。



「名前!きょうね!きょうね!」
「うんうん、お話は後でね、エメット君。まず先生にお別れして靴を履こうね。」
「せんせーまたねー!」
「名前きょうなのですが」
「インゴ君も先生にご挨拶、ね?」
「おせわになりました。」
「なんか違うけど、まぁ、いいか。」



ありがとうございましたと先生に挨拶を済ませ、小さな手を握り締めて幼稚園を後にした。
歩道側を歩かせないようにと、どちらか一人と手を繋ごうとするのだが、



「エメットはきのうも名前とつないだでしょう!」
「それはインゴがじゃんけんにまけたから!」
「たまにはおにいちゃんにゆずりなさい!」
「おにいちゃんなんだからおとうとにゆずってよ!」
「はーい、喧嘩両成敗。今日もじゃんけんで決めようね。」



ひどく懐いてくれているようで、こうしてどちらが私と手を繋ぐのかで喧嘩をしてしまうのだ。理由が理由なだけに、ついつい頬が緩んでしまう。かーわいいなぁ、なんて二人の頭を撫でてあげたら、ぶすっと頬を膨らませたエメット君と普段から表情のないインゴ君が口を思いっ切りへの字に曲げて睨み合っている。仕方ないと二人の手をとって「じゃんけん……」と言えば、素直なお子様は慌ててじゃんけんを開始する。



「ぽん。」
「わあああん!インゴのばか!」
「なんとでもいいなさい。」



どうやら今日はインゴの勝ちらしい。また明日ねってぐずるエメット君の頭を撫でてあげてインゴ君の手を握った。インゴ君は今にも泣き出してしまいそうなエメット君の手をむんずと掴んで歩いている。双子なのに兄として振舞おうとしているインゴ君の態度に今直ぐ抱き締めたい衝動に駆られたが、それをなんとか抑えた。



「それで?今日はなにがあったの?」
「そう!きょうねボクまたこくはくされたの!」
「わぁ、エメット君本当モテルね。」
「ことわったけどね!」
「なんで?」
「そりゃー、ボクはしょうらい名前とけっこんするからね!」
「そっかぁ。じゃあもらってくれる人がいなかった時にはエメット君に頼もうかな。」
「エメット!」



このくらいの男の子でもこんなことを言うのか。おませさんだな、なんて思っていたらインゴ君が小さな手で私の手をぎゅうっと握り締めてくる。そしてエメット君を睨みつけたかと思うと、珍しく私にもその視線を寄こした。



「エメットに名前はあげません!名前もかんたんにおとこについていってはいけません!おとこはおおかみなのですよ!」
「インゴ君それ意味分かって言ってるの?」



子供にしては鋭い視線を向けて睨んでくる。きっと男が狼、なんて意味も分からないで言っているであろうインゴ君はやっぱり可愛らしいまだまだ小さな男の子だ。私の言葉に疑問を持っている筈なのに、それを聞き返す暇もなく、エメット君がインゴ君の言葉に噛みつくから、再び喧嘩勃発である。ぎゃいぎゃいとうるさく騒ぐこの子達を遠目に見ながら、近所のおばあさんに「今日も元気ねー」なんて言われた。私は授業終わりでぐったりだけどね。



「「名前!」」
「なっ!?なに!?」



急に目の前に飛び出してきた二人が私の足に擦り寄ってきた。びっくりして一歩後ずさると、それに伴って二人も詰め寄ってくる。一体なんだというのか。



「名前はボクとけっこんするよね!?」
「名前はワタクシとけっこんしますよね?」



ああ、その話でまだ喧嘩してたの。なんてどこか他人事のように思っていたら、どうなの!どうなんです!なんて大きな声で迫られて。また別のおばあさんに「あらあら結婚まで申し込まれてるの?羨ましいわねぇ。」とはやし立てられた。こんな子供に求婚されても、後々この子達の黒歴史になるだけなのにね。



「そうだねぇ。」



暫く悩むふりをして二人の様子をちらりと窺うと、じいっと期待と不安の眼差しを私に向けていた。お母さんとお父さんどっちが好き?なんて子供を困らせる質問が存在するように、大人を困らせる質問などいくらでも存在する訳で、この二人の質問もそれに該当する。だからといって、どちらかを選べばきっと泣いてしまうだろうし、それ以前にどちらかを選ぶなんてことは出来ない。二人ともそれぞれが可愛くて仕方ないのだから。
結局のところ、大人は大人なりに誤魔化すという術を持っているのだから、その特権をおおいに使わせてもらおうと思う。



「二人が大きくなったら考えてあげる。」



大きくなった二人がまさかこの約束を覚えていたとは夢にも思わないのだけど。



(さぁ、ワタクシですか)
(勿論ボクだよね?)
(大人になったのですから)
(今度は真剣に選んでくれるよね?)



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