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アニクダ

「で?どこまで進展したんです?」



休憩時間、お弁当を広げたところでノボリ兄さんがそう尋ねて来た訳だけど、唐突過ぎて分からない。首を傾げているとノボリ兄さんが深い溜め息を吐いた。誰だってこんな唐突に質問されたら分からないじゃないか。



「貴方と名前様の関係に決まっているでしょう。」
「え!な、なんで急にそんなこと聞くの?」
「急なことでしょうか?付き合ってからだいぶ経ったと思うのですが。」
「そう、だけど。」



ノボリ兄さんが早く言えと目で訴えてくる。でも、そんなこと今更兄さんに言うことじゃない。家族の恋愛話なんて聞いてなにが面白いのかな。言葉を濁して言わないで済む方法を探すけど、ノボリ兄さんは断固としてそうはさせないらしい。



「どこまでって、例えば?」



ノボリ兄さんの求めてる答えがなにか。それを伝えれば満足だろうと、聞いたのは間違ってないと思うんだ。ただ、ノボリ兄さんが直接的過ぎるんだと思う。



「セックスはしましたか?」
「ゲホッ!ぐっ!ゲホゲホ!」
「汚いですね。こっちに飛ばさないで下さいまし。」



口に含んでた卵焼きが器官に入ってむせた。凄く嫌そうな顔してるけど、ノボリ兄さんが変なこと言うからだよ!



「そんなこと普通聞かないでしょ!?」
「わたくし、普通ではございませんので。」
「そういう問題じゃないよ!」
「どうなのですか?」
「ど、どうって、ま、まだ、だけど…。」
「貴方不能なのですか!?」
「なんでそうなるの!?」



ありえないみたいに目を見開いてるけど、お、おかしくないでしょ?だって、付き合って半年だよ?まだ、セ、セックス、なんて早いよ!それに体の関係なんてなくても、僕は名前ちゃんとキス、とか、手繋いだり、とか出来るだけで幸せだし。そう伝えても、ノボリ兄さんは聞き流すだけで全然取り合ってくれない。僕の名誉の為に言うけど、僕は不能じゃない。ノボリ兄さんの手が早すぎるだけだよ。



「しかし、それでは名前様を半年間欲求不満にさせてきたと、そういうことですね。」
「え。」

***

あんなこと言われて翌日にデートなんて、変に意識しちゃって困る。久しぶりに会えるっていうのに、どんな顔したらいいのか……。落ち着かない僕は家の中でそわそわと無意味に行ったり来たりを繰り返す。そんな僕をシビルドンが不思議そうに見詰めていた。そうこうしているうちにも時間は過ぎてしまって、ピンポンと軽快な呼び鈴が鳴る。



「は、はい!」



急いでドアを開けると久しぶりに見る名前ちゃんの姿。出掛けようとも思ったけど、僕が疲れてるからって気を遣ってくれた名前ちゃんが僕の家で過ごそうって言ってくれたんだ。凄くいい子だよね!部屋に招き入れて適当に座ってもらってから、ココアを持って僕も座った。すっかり懐いたシビルドンが名前ちゃんにぴったりくっついていて、ちょっと羨ましいとか、別にそんなこと、思ってない。シビルドンがくっつくせいで肌蹴た胸元を直していた。その仕草にちょっと心臓が跳ねる。この前ノボリ兄さんが欲求不満な仕草っていうのを教えてくれたんだけど、その中に、自分の服や襟、胸元に触れるっていうものがあったんだ、けど、これは偶然だ。シビルドンがくっついてるから、そりゃ肌蹴たら直すに決まってる。そうに違いない。

***

しきりに髪を気にするのも、欲求不満の合図だって、聞いたんだけど。いや、でも、女の子は身だしなみを凄く気にするし、髪を弄るのも別にそういう意味じゃない、よね?でも、もし、もしノボリ兄さんの言う通り名前ちゃんが欲求不満だとしたら、僕も男だし、そういうことも、し、したいと思うんだけど、ってうわあああ僕なに考えてるの!



「クダリさん?大丈夫?」
「へっ!?あ、うん!だ、大丈夫!」



心配そうに覗き込まれて、咄嗟に大丈夫と言ったけど、正直大丈夫じゃない。ノボリ兄さんがあんなこと言わなければ僕は今頃普通に名前ちゃんとまったり過ごしてご飯食べてたっていうのに!そうは言っても、今更忘れるなんて出来ない。こんな風に悶々としてるくらいなら直接聞いて、しまおう、かな。



「名前ちゃん、さ、あの、えーっと……。」



話を振ったのは僕だっていうのに、いざとなると勇気が出てこない。名前ちゃんは不思議そうにじっと僕を見詰めてる。そんな純粋な瞳で覗き込まれると、これからしようとしている質問が汚過ぎて凄く申し訳ない気持ちでいっぱいになる。



「なにか言いにくことですか?」
「えっと、うん。ちょっと、というか、かなり…。」
「うーん、私で答えられる範囲ならちゃんと答えますけど。」



つい、気が抜けちゃったんだと思う。聞きにくいことだからこそ、しっかり頭の中で整理して言おうと思ってたのに、ほっとしちゃって、思わず口が滑った。



「名前ちゃんって、欲求不満だったりする?」



あれだけ渋っていたのに、なぜこうもあっさりと言葉が出てきて且つ、口を滑らせてしまったのか。自分でもよく分からない。



「えっと……。」
「う、わ、あの!ごめん!違う!違くて、その!」



僕もだけど、名前ちゃんはもっと困ってる、筈。急にこんなこと聞いたら僕が溜まってるみたいに思われちゃうよね!?違うって言いながら、上手ないい訳が出てこなくて、言葉にならない言葉が口から漏れる。名前ちゃんの顔なんて、見てられなくて、僕は俯きながら拳を握りしめた。



「欲求不満かどうかは、分かりません。」



ゆっくり戸惑いながらも僕の変な質問にしっかり答えてくれる。それが更に申し訳ない気がして、やっぱり僕は顔をあげられない。



「でも、クダリさんなら……あの、いい、です。」



ここで顔をあげなかったら男じゃないと思うんだ。ほとんど反動みたいに顔をあげたら、耳まで真っ赤にした名前ちゃんがさっきの僕みたいに俯いていた。それを見た僕もなんだか堪らなく恥ずかしくなって、やっぱり言葉にならない言葉を発しながら、顔に熱が集中するのをどうにも出来ない。僕、今すっごく幸せかもしれない。



「僕で、よければ。」



そんな言い方あるかとノボリ兄さんに怒られそうだけど、今の僕にはこの答えが精一杯だったんだ。

***

「それで?如何でしたか?」



やっぱりというか、ノボリ兄さんもしつこい。デートの次の日、普通に出勤した訳で、絶対に聞いてくるとは思ったけど、朝一でそんなこと聞く兄って一体…。呆れて項垂れた。そんな僕の様子をどう解釈したのか知らないけど、ぽんぽんと肩を叩きながら、まぁ、次がありますよ、なんて言ってくる。変な勘違い止めてよ!



「ノボリ兄さんのせいで散々だったよ。」
「それはすみませんでした。まさか貴方がそこまで根性無しとは思いませんで。」
「言っておくけど!ノボリ兄さんが思ってること、し、したんだからね!」



根性無しとか、不能とかノボリ兄さん本当失礼!ざまぁみろ、という意味を込めてノボリ兄さんを思いっ切り睨んでやった。ノボリ兄さんは一瞬だけ驚いていたけど、直ぐに口角をあげてニヤリと笑った。子供が玩具を見付けて喜んでるとか、そんな可愛いものじゃない。強いて言うなら悪役が計画通りに事を進めてるような、そういう悪い笑い顔。



「ようやく貴方も童貞を卒業したのですね。兄としてとても嬉しく思いますよ、ええ。今日は貴方の家に赤飯を持って行きましょう。そうですね、なんでしたら今度わたくしも交ぜて下さいませんか?」



ノボリ兄さんには一切話さないことがベストだと悟った。



(絶対嫌だよ!)



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