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ツンデレクダリ

「また来たの?君、ぼくに勝てない。ぼくつまんない。」
「今日こそ勝ちます!勝つんです!いいから早くバトルして下さい!」



21両目ダブルトレイン。育て上げたダイケンキとサザンドラを表舞台に出せば何だかんだ言いながらお決まりの台詞を零してダブルバトル開始の合図。でも、クダリさんは本当にやる気が出ないみたいで、冷めた目で私を見下しているようだった。確かに私はそこまでバトルが強い訳じゃないけど、一応クダリさんの元に辿り着くくらいの実力は持ってる。それなのにクダリさんは私が負けると決めつけてる。いや、まぁ、結果はいつも私の敗北で終わるんだけど、でも挑戦者に向かってそんな態度って酷いんじゃない?あからさまなクダリさんの態度に少なからず傷付く物がある。



「ねぇ、バトルするんでしょ?前見てないと出来ない。」
「…あ、はい。」



クダリさんに指摘されて自分が俯いていることに気がついた。ダイケンキとサザンドラが少し心配そうにこちらを振り返っていた。わざわざ心配してくれる可愛い私の相棒達に大丈夫と体を一撫でし、バトルに向き直った。結果から言えば私の負けだ。でも今回は少し惜しかった。スピードが若干クダリさんのポケモンの方が上手だったのだ。あと少しで勝てたのに!そんな悔しさを噛みしめながら、シャンデラとエモンガをボールに戻した。



「ほら、やっぱり負けた。」
「うっ、でも今回はいつもよりは―――」
「それでも負けは負け。名前のはただ負けたことへのいい訳。」



クダリさんの言葉が胸に刺さった。負ける度にいつもよりはいつもよりは、って確かにそれじゃあいつまで経ってもクダリさんには勝てない。いい訳を作って、逃げ場を作ってるだけなのかもしれない。モンスターボールを握り締めて悔しさを殺した。



「いい訳ばっかり。だから勝てない。反省して。ポケモンが可哀想。」
「は、い……。」



たった一言、返事を返すことが億劫で仕方なかった。顔を上げて声を発するだけで込み上げてくるものがあった。バトルが終わってからギアステーションに着くまでの間、なんとかそれを堪えて早々にギアステーションを立ち去った。立ち去る前にノボリさんが焦った様子でこちらに駆け寄ってきたけど、今は誰とも話す気分になれない。それにノボリさんのことだから私に用事というよりも、クダリさんに業務連絡でもしたのだろうと思う。

***

「名前様!ああ、行ってしまわれた……。クダリ!なぜあのような言い方を!」



クダリは普段こそ子供のように振舞っておりますが、好意を持つ方をどうしても突き放す様な態度をとってしまうのです。わたくしのように事情を知っていれば別ですが、好意を持たれた方がそのような事情を知る筈もなく、いつもクダリが悲しい思いをするのです。大切な弟ですからクダリには幸せになって欲しいのです。だからこそ、忠告をしているのですが、聞く耳を持ちません。



「だって本当のこと。」
「もっと言い方というものがあるでしょう!全く…貴方という人は…。どうして好意を持った方に素直になれないのですか。」
「ちっ!?違う!!ぼく名前のことなんか好きじゃない!!」



真っ赤にした顔で言われても全く説得力がございません。体全体を使って否定を続けておりますが、その赤みを増した頬や耳が何よりの証拠でございました。その素直さを少しでも名前様に伝えられたらいいのですが……。

***

名前とバトルして、ノボリに変な誤解されて、それから何日も過ぎた。あれから名前はバトルサブウェイに来なくなった。別に名前が来ないからってどうってことないよ。バトルは順調だし、書類整理なんかもやってみた!それなのに名前来ない。どうして?ぼくが酷いこと言ったから?でも、そんなこと今まで言っても来てくれた。なのに何で今更来ないの?ねぇ、なんで?



「クダリ、手が止まっていますよ。」
「もうやだ。バトルしたい。」
「そればかりがサブウェイマスターの仕事ではございません。しかし、バトルと言えば、最近名前様をお見掛けしませんね。」
「!」



わざとらしく目配せしてきたノボリ、絶対わざと。ぼくが名前のこと考えてるって分かってて言ってる。ちょっとムカつく。書類放り投げてぼくはギアステーションの散歩に行くことにした。居心地悪いし、ずっと座ってお仕事なんて性に合わない!



「あ。」



ノボリのうるさい声を無視してスタッフオンリーを潜ってすぐ、名前を見付けた。新しく見るポケモンを抱えてジャッジと凄く楽しそう。なにそれ、ムカつく。さっきのノボリよりもすっごくすっごくムカつく!ぼく、気付いたら大股で名前とジャッジに近付いてた。



「あの、クダリさんは……。」



ピタリ。名前呼ばれて、止まっちゃった。急いで物陰に隠れて名前とジャッジの会話盗み聞き。良くないことだけど、好奇心の方が優先。ごめんね。



「うん?」
「クダリさん、その、お、お元気ですか?」
「うーん、そうだなぁ。僕もそんなに毎日会ってる訳じゃないけど、ちょっとぼうっとしてる、かな?」
「あ、そうなんですか。」
「僕に聞くより名前ちゃんお方が詳しいんじゃないかな?」
「え!あ、いやぁ…そんなこと……。それに私クダリさんに嫌われてるみたいで、あんまり表情とか変わったところ、見たことないですし…。」



寂しそうな名前の顔。なんだか見ていられない。思わず物陰から飛び出して走って名前に飛びついた。ぼくの重さに耐えられなかった名前が少し飛んで倒れた。大丈夫、ちゃんと頭打たないように背中に手回したから。ビックリしてぼくにしがみ付いてる名前に、何となく今までのイライラが飛んでいった。



「名前!」
「ク、クダリさん?お、お久しぶりです。」
「なんで来ないの?」
「え?いや、ちょっと厳選したりしてて。それより、離して下さい。皆見てますよ!」
「……やだ。」



離してなんて言うから逆にぎゅうって抱き締めた。ホントは冷たい言葉も冷たい態度も取るつもりじゃなかった。今みたいにぎゅうって抱き締めて好きって、大好きって言いたいのに、出てくる言葉は思ってもないことばっかり。分かんないけど、反対のこと言っちゃう。だからね、今みたいに言いたいことが言える時だけは名前にちゃんとぼくの思ってること言いたい。



「あのね、」



(ぼく、名前が大好き!)



―――
ツンデレじゃないね。



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