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アニメノボリがストーカー

→アニメノボリ
→インゴがしょた化(ただのかませ役)



「こんにちは。」
「………こんにちは?」



黒い服に身を包んだ男の人が挨拶をしてきた。ベランダで洗濯物を干していた私は男の人が誰に挨拶をしているのか分からず、妙な間を開けてしまった。だって、私は男の人を知らない。辺りをきょろきょろ見回したところで周りにいるのは私と男の人だけ。とりあえず挨拶を済ませたが、やっぱり知らない人だ。その男の人は挨拶だけを済ませると、にっこりと笑って、ベランダ越しで見えなかった小さな男の子の手を引いて歩いて行った。親子なのか、そうも思ったが小さな男の子に見覚えがあった。近くに住むインゴ君という男の子。迷子になっていたところ、家まで送ってあげてから懐かれたのだ。その時見た両親とは顔が違うし、何より雰囲気が違う。しかしながらあの特徴的なもみあげがあるし、血縁関係の人だろう。不思議に思いつつも私は洗濯を再開した。

***

「こんにちは。」



あれから数日。インゴ君には会っていない。しかし、この男の人には逆によく会うようになっていた。昨日も一昨日も、その前も、仕事帰りに、時には買い物帰り、もしくはゴミ出しの時に。今日も仕事帰りに遭遇し、声を掛けられる。ただにっこり、人当たりの良さそうな笑みを浮かべて挨拶をするだけ。他に何か話をすることもない。どこか気味が悪くて、簡単に挨拶を済ませて逃げるように部屋に入った。

***

「名前さま!」
「あっ!インゴ君!」



一階にあるアパートの外から聞きなれた、少し舌足らずな声が聞こえて慌てて部屋を飛び出した。子供にしては鋭い目付きで私を見詰めるその大きな瞳が可愛い。ああ、早く会って頭を撫でてあげたい。ばたばたと玄関を飛び出して行くとインゴ君と、また、あの、男の人、だ。



「こんにちは。」
「こん、にちは…。」
「名前さま、このひとはワタクシのいとこにあたる、ノボリです。」
「ご挨拶が遅くなってしまい申し訳ありません。ノボリと申します。常々インゴから話を聞いておりまして、お優しい方だと。」
「い、いえ、そんな……。」



彼はノボリさんというらしい。やはりというか、彼はインゴ君の血縁関係者。それなら、怪しい人では、ない……?ちらりとノボリさんを窺うと、やはりそこには崩れない笑みがあって、つい、視線を逸らすようにしてインゴ君を見遣った。インゴ君は相変わらず少しキツイ目付きをしながら構ってくれと言わんばかりに私の袖を掴んでいる。君と二人だったら良かったのにな。

***

「インゴ君、どうして急にノボリさんを連れてきたの?」



ノボリさんに自己紹介をされてから数週間が経った。今まで付き添いなどなかったというのに今では必ずノボリさんがいて、どこか落ち着かない。どうしてかは分からないが、ノボリさんが時折舐めるように私を見詰めているような、そんな気がして、なんだか怖い。自意識過剰と言われればそれまでなのかもしれないが。しかし今日はインゴ君だけが来てくれた。インゴ君曰くたまには二人っきりがいいとのこと。私だって、たまに、じゃなくて出来ることなら会いに来てくれる日は全て二人っきりがいい。いや、もしかしたらノボリさんじゃなかったら平気なのかもしれない。とりあえず、今がチャンスと言わんばかりにインゴ君に尋ねてみれば、インゴ君は目をきょとんとした表情で目をぱちくりさせる。



「ノボリが名前さまにあいたいと言っていたので。」
「ど、どうして?」
「ワタクシが名前さまのお話しをしたからではないですか?」
「そう、かな…。」



……それだけなら、いいのだけど。



***

「こんにちは、名前様。」



ベランダで洗濯物を干していた時、聞き慣れてしまった声がして一瞬びくりと体が震えた。まるで最初に出会った時のようだったが、その時と違うのは彼が私の名前を知っていて、私が少なからず彼に恐怖心を抱いていることだ。それを悟られまいと振り返れば、ベランダの柵越しにノボリさんがいつものように微笑んで佇んでいた。あの時と、最初に出会った時と、そっくり。



「こんにちは。あ、れ?インゴ君は?」
「ああ、今日はわたくしが個人的に用があったので。」
「そう、ですか……。」



嫌な予感がして、背筋が凍る。いつからベランダの所にいたんだろう。足音も気配も、しなかった、のに。うるさい心臓を聞かれまいと、濡れることも気にせずに洗濯物を胸元で握り締めた。ノボリさんは相変わらず微笑んだままで、ただ黙って私を見詰めていた。



「あの、ご用件とは……?」
「立ち話もなんですから、少々お邪魔しても宜しいですか?」
「え……。」



この人を家に入れる?ノボリさんはにこにこ笑ってて、でも、私はそれとは正反対にきっと顔が引き攣ってる。冷や汗も酷くて、心なしか足が震えているような気もする。駄目。この人を入れちゃ、駄目。頭では分かってるのに、上手い言葉が出てこない。帰って欲しい。でも、そんなこと言えない。どうにかして帰ってもらわないと、でも、なんて言ったら……。気が付いた時には目の前にいた筈のノボリさんはいなくて、ドンドン、玄関のドアを叩く音が聞こえた。



「名前様、開けて下さいまし。」
「ひっ!」



鍵を掛けていて良かった。ドアを叩いたところで入って来れる訳ではない。残った洗濯物を急いで部屋の中に押し込んで窓に鍵を掛けてカーテンを締めた。ドアの前で私の名前を何度も呼ぶノボリさんの声が頭に響いて警戒信号を鳴らす。駄目、絶対に入れちゃ駄目…。よろよろとした足取りで玄関まで向かい、失礼とは思ったがドア越しに声を掛けた。



「す、すみません、私この後用事があって……。」
「そうですか。それはすみませんでした。ところで名前様。ドアを開けて下さいませんか?」
「いえ、あの…、へ、部屋が散らかってて!」



どうしてそんなにドアを開けようとするの?咄嗟に口を吐いて出た嘘に、ノボリさんは「そうですか。」と一言だけ漏らしてドアを叩くのを止めた。ああ、良かった。これで帰ってもらえる。しかし、安堵したのも束の間で、急にドアの方からガチャリと音がして、次いでガチャン、と補助鍵の引っ掛かる、音が。



「綺麗じゃないですか。嘘はいけませんよ。インゴが真似をしてしまいます。」
「ひっ!な、なに、して……!」



ぎょろりと大きな目が隙間から現れた。その目玉がぎょろぎょろ忙しなく動いて部屋中を見渡していたかと思うと、私にその視線を寄こし、動きが止まる。怖い、怖い怖い。すっかり腰を抜かして玄関先で尻もちを着いた私はノボリさんが間近にいることも気にせず小さく悲鳴をあげてずりずりと後ずさった。それなのに、ノボリさんの、腕が入ってきて私の足を力いっぱい掴む。痛みに呻くと、ぎょろりとした大きな目が嬉しそうに三日月形をして細められる。



「なぜ逃げるのです?わたくしはただお話をしたかっただけですが?」
「いっ、いた、い、ですっ!ノ、ノボリさん……。」
「嘘を吐いたらお仕置きをしなければいけませんでしょう?」



ギリギリと力が入って足首がミシミシ、音を立てているような気がする。あんまりにも痛くて必死に謝れば少しだけ手の力が緩んだ。恐怖か、それとも痛みか、いつの間にか流れていた涙が俯いた顔から重力に従ってぽたぽたと垂れる。



「ふふ、泣いてしまわれたのですか?まるで子供ですね。嘘を吐いてはいけませんよ?」
「ぅ、あ、はい。ごめっ、なさ……」
「分かって頂けたのなら結構です。ですが名前様、この補助鍵を外して下さいませんか?もう一つ、嘘をお吐きでしょう?」



ミシミシミシ、再び痛む足首にもうほとんど悲鳴を上げて叫んだ。怖い怖い痛い。誰か助けて怖い痛い痛い。思わずノボリさんの手を掴んで、必死に離そうと試みるのに体が震えて上手く力が入らない。しかしながら、それでも若干痛みが和らぐものだから涙を拭くのも忘れてノボリさんの手を握った。



「早く開けなさい。骨が折れても知りませんよ?ああ、叫んでも無駄です。今し方、皆さん出掛けてしまわれましたから。」
「うぐっ、いた、ぁ、ノボリさん、はな、してぇ!痛い、から!」
「それなら早く開けなさいと言っているでしょう。」



まるで無機物と話してるかのように冷たくて、感情が読み取れない声音がして、やっぱりノボリさんのあの笑顔は作り物だったんだと、妙に冷静な頭が思考を巡らせた。
補助鍵を取ってしまえばノボリさんが入ってくることは分かっていても、痛みには敵わない。急いで補助鍵を取れば、ノボリさんの手の力が緩んで足首から離れていく。痛くて暫く動けないでいると、ガチャリと音を立ててドアが開いて、目の前にはにんまり笑ったノボリさん。



「とっても素敵な表情をしていらっしゃいますね。」
「ひぃっ!やだ、来ないで!」
「そう言われましても、名前様はまだわたくしに嘘を仰っておりますし、罰を受けて頂きませんと。インゴに真似をされては困りますし、これ以上わたくしに逆らわれても面倒ですし。」



なんとか立ち上がって逃げ出しても、簡単に腕を掴まれて床に押し倒された。打ち付けた衝動で頭も痛いし体も痛い。どこもかしこも痛い痛い痛い痛い痛い怖い。



「ふふ、好きですよ名前様。愛しています。」



痛い痛い止めて怖い痛いやだ止めて痛いことしないで!



―――
インゴを迎えに行ったアニノボが一目惚れしちゃって、それからつけ回すっていう、そういうお話。



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