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ロボットノボリ

→ロボットパロ



ロボットといわれる感情のない無機物は、今日も我が物顔でこの世界を徘徊している。
私が生まれてからの技術の進化は目覚ましかった。小さい頃はまだまだ少なかったロボットは私が成長し大人になる頃には、人間と同じ、もしくはそれ以上に増殖していた。工場の生産用であったり、愛玩用であったり、用途によってそれは様々な形をしている。それに違和感を覚えざるを得ない。特に人型など、ただ見た目が人間なだけで決まった台詞、決まった動作、決まった言い付けを守るだけ。人間となんて似ても似つかない。



「(気持ち悪いな)」



それが私の素直な感想。いくら便利だろうと、人間の皮を被っているなにかに過ぎないと思うと気持ち悪くて仕方ない。今こうしているうちにも、人間はロボットの力を借りて生活しているというのに。しかし、こんなこと言っておきながら、私だってそのロボットなしで生活など送れない。私の働くギアステーションでは、ロボットである二対を上司と呼んで働いているのだから。全く馬鹿げた話だ。ロボットが上司とか勘弁して欲しい。



「おはようございます。」



更衣室で素早く着替え、足早に事務室に向かった。私が事務室に顔を出した時には既に先輩が数名、そしてあの上司二人が並んで立っていた。



「おはよ!名前。」
「おはようございます、名前。」



ロボットである二人は全てがそっくり。区別は着ている服の色と口角の上がり下がりくらいのものだ。しかし、そこまでそっくりにしておきながら、なぜか性格が全く違う。白い方は外見に似合わない子供の様な幼稚な話し方で、にこにこといつでも嬉しそうに笑っている。ロボットは気に入らないが、白い方はその外見のせいかもしれないが、時折、感情があるような場面があるから嫌いではない。しかし、その片割れ、黒い方は全くいけすかない。口をへの字に曲げ、無愛想を絵に描いた様な外見、モデルが男のくせに女の様な話し方、なによりマニュアル通りの所作が気に入らない。



「1時間後に朝礼を開始致します。くれぐれも遅れないように気を付けて下さいまし。」



おえ。なにさ、ましって。お前は女じゃなくて男なの、お、と、こ!秒刻みで同じことをする黒い上司に朝から嫌気がさして無駄に気力が削られるわイライラするわでいいことない。その黒い方がそそくさと事務室を去ると、それを追い掛けるように白い方も慌てて出て行った。それを見送って、たった今の出来事を忘れるべく頭を振って私は自分の席に着いた。

***

「名前様はわたくしが嫌いなのでしょうか。」
「……は?」



数分前、黒い方に急に呼び出された。書類に不備でもあったのかと心配して来たというのに、そういう訳ではなさそうだ。えっと、今なんて?



「聞こえませんでしたか?ならばもう一度言いましょう。名前様はわたくしが嫌いなのでしょうか。」
「いえ、聞こえてます。あの、用事ってそれですか?」
「はい。」



淡々とした口調で、まるで事務連絡をしているかのような錯覚を覚えるが、内容はそんなものとはかけ離れていた。先程の言葉を頭の中で反復し、それ以外の意味を考えてみるが、どうも私の乏しい頭では思い浮かばないようで。勿論、そのままの意味で正しいというのであれば、私はこの黒いのが嫌いだ。まずロボットであることが気に入らないし、それを主張するかのような所作が癇に触る。しかし、ロボットであるといえど、一応上司ではある。ここで素直に嫌いですなんて言って、更にお偉いさんにばれてしまい、私が首なんてこともあるのでは。



「い、え…。別に…。なんとも思ってないです。ボスはロボットですから。」



ロボットに皮肉など通じない。ただの自己満足。黒い瞳がしっかりと私を覗き込む。なにも知らない、純粋そうな瞳を持つことにまで腹が立つ。机を挟んで椅子に深く座ったままの黒いボスが何かを考える様な仕草で首を傾げた。



「好きや嫌いの反対は無関心だとデータにインプットされています。名前様はわたくしに興味がないと。」
「えーっと、はぁ、まぁ。」



なにが言いたいんだ、このロボット。まさか職員全員にこんな質問をしているのかと思ったが、黒いボスに呼びだされている職員などここ最近いなかった。もしかしたら私が最初の餌食なだけか。訳の分からない質問をする黒いボスに面倒になり、適当に話を済ませて戻ろう思ったのだが



「少々失礼致します。」



ガタンと立ち上がったボスが私の目の前に立つ。無駄に高い身長のせいで近くにこられては見上げるしかない。目の前に立ったボスは無言で私を見下し続ける。普段では考えられない変則的な動作や言動をするロボットに、妙な安堵を覚えてしまった。そんな折、ふいに顔に影がかかったかと思いきや、唇に触れる柔らかい感触。目の前に見える整った顔。気付いた頃には、もうボスの顔は離れていて、呆然と立ち尽くしぼうっとボスのことを見詰めていた。



「すみません、このようなことを、するつもりはなかったのですが…。」



みるみるうちに顔が真っ赤になって、おどおどと慌てだした。いつもの機械的な口調はどこへやら。歯切れが悪く、どもってしまい何を言いたいのかさっぱり分からない。たった今キスをしてきたロボットが、まるでロボットらしからぬ行動をとった。それにも驚いたが、殴り飛ばしたくなる程嫌ではなかった自分に驚いた。



「すみません……。少々最近故障気味でして、わたくしにも分からない行動をしてしまうのです。」
「え?あ、ああ。そうなんですか。」



故障気味。ロボットだと主張するその単語に苛立ちが戻ってくる。遅れて唇を拭ってしまいたい衝動に駆られたが、制服に口紅がつくのは非常に困る為、ひとまずその衝動だけを抑えてボスと距離をとった。



「わたくしも早く点検をしてもらわねばなりませんね。しかし、故障の原因がいまいち分からないのです。わたくしが故障をする時は決まって名前様が側にいる時だけ。調べてみましたが、他はなんともないのです。これは名前様にも原因があるのではないかとわたくし思うのですが。」
「え、えぇ…。知りませんよ、そんなこと。」



機械のことなんて私みたいなのが分かる訳ない。ましてや高性能なロボットでさえ分からないことが私に分かる筈がない。一歩、距離を詰められたので、それに伴って私は一歩後ろへ。急に熱弁しだしたボスにおかしい所は認めざるを得ないけれど。



「名前様といると心臓部分の動きが速くなるのです。体温も上がって2日以上持つ筈のバッテリーが持ちません。名前様とこうしてお話をすると、自分がなにを言っているのか覚えていないのです。一字一句記録されるようになっているというのに、おかしいのです。名前様はなにかご存知ですか?」



とうとう壁際まで追い詰められ、急に手が伸びてきたものだからボスの故障どころの話じゃない。髪を梳いて、頬を撫ぜ、するすると降りてくる手は背中を撫でそのまま―――



「ちょ!どこ触ってんですか!」
「わたくしの話を聞いておりましたか?」
「いいからこの手を退けて下さいよ!」



お尻触られた。ロボットにセクハラされるなんて思わなかった。キスは恥ずかしいのにセクハラは平気な顔でするのか。妙に近いボスの体を押し返しても、それは中々動いてくれず、退けろと言った手はやんわりと太腿辺りを徘徊している。腕を掴んで止めようと試みたが、それを先読みされたのか開いていた片腕で阻止されてしまい、更には距離も詰められてしまってもうどうしたらいいのか。耳元で息が掛かり、くすぐったいんだか恥ずかしいんだか訳が分からない。



「もう一度言い直した方が宜しいでしょうか?」
「っ!い、いいです!知りません!ボスの故障の原因なんて知りませんから!」



ぞわぞわして顔に熱が集まるのが分かった。耳も熱くて、変に熱を持って気持ち悪い。
知らないと叫べば体も腕も案外すんなり離れていって安心した。ボスは尚も思案するように小首を傾げている。



「そうですか。名前様、わたくしロボットでございますから、人間が繁殖行動をするように触れたいとは思いません。」



安心していたらこれだよ。完全に自分のことをロボットと言い切ったボス。もうここまでくると苛立ちを通り越して呆れてくる。だからなんだと目で訴えたが、私のことなど無視して明後日の方向を向いてい話続けているというのに、まるで自分に言い聞かせているようにも見えて淡々と話すロボットのようには感じなかった。



「しかしながら、名前様には触れてみたいと思うのです。先程のようにキス、もしたいと、その、思っておりますし、名前様の体にも触れてみたいのです。」



だからキスは恥ずかしくてセクハラはどうして平気なんだ。基準のいまいち分からないボスに混乱するも、どうも話を聞く限り故障というよりは人間の恋心の様なそれに近い気がしてならない。いや、しかしロボットが恋愛感情などを抱く筈がない。やっぱりこれはただの不備なのだろうか。



「明日にでも修理をしてもらった方がいいのでしょうか。」



そんなことを相談されても、と思ったが、これはチャンスかもしれない。ロボットは嫌いな理由はただ単に感情がないからだ。もし、故障であれなんであれ、ボスに感情に似たものが芽生えたというのなら、これを放っておいても支障はないだろう。寧ろ私にとって好都合になるだけ。



「だ、大丈夫ですよ!故障じゃないですから!」



真剣に悩む素振りを見せるボスに私も真剣を装って励ました。ロボットを励ます日がくるとは思わなかった。今日はなんだか変な経験をしてばかりだ。頭の片隅でそんなことを考えながら、必死にそれらしい言葉を並べてボスを修理に行かせないように説得する。



「今のままのボスが一番ですって!」
「そうでしょうか。」
「はい!そんなに気にする程のことでもないですから!大丈夫!平気です!」
「そう、ですね。」



数分の説得の末押し負けたように納得してくれたボス。少し嬉しそうに見えたのは多分私の気のせいだろう。無駄に時間をくってしまったが、ようやく事務室に戻れると思いそれじゃあと声を掛けようとしたところ



「失礼。」



私が別れを告げるよりも先にボスが屈んで、ちゅっと軽いリップ音。気が付けば初めて見るボスの笑顔。照れたように制帽を深く被り直して目線を合わせないように俯いた。様子のおかしい故障気味のボスに不覚にも胸が高鳴ってしまうのだから、余計にロボットなんていけすかない。



「キスをすると一気にバッテリーを消費していけませんね。」



なら最初からするな!



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