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タイツ派と生足派

雪が深々と降る中、私は朝早くから電車のホームで電車が来るのをまだかまだかとひたすら待っていた。せっかく学校が最終日で気分がいいのに、これだけ寒いと終業式などすっぽかしてベッドで布団に包まっていたい衝動に駆られる。少しソワソワしながら早く早くと電車を待つ。すると、ホームによく知った声が響いた。



「名前様!!!!どうなさったのですか!!!!」



朝からうるさいの一言に尽きる。エクスクラメーションマークが何個もつく程に大声で叫びながら黒いコートをはためかせたノボリさんが走って私の元にやってきた。



「おはようございます、ノボリさん。」
「おはようございます。いえ、それどころではございません!如何なさったのですか名前様!」
「何がですか?」
「なぜっ!なぜっ!そのようなタイ「名前ーーーーーー!」」



次から次へと騒がしい。私の名前を叫びながらドタバタ走ってきたのは白い方のクダリさんだ。ぜぇはぁ息を切らしながら相変わらず口元は釣り上がっていてお人形のようだ。ある程度息の整ったクダリさんは嬉しそうとも楽しそうともつかない笑みを浮かべていた。



「クダリさんもおはようございます。」
「おはよう、名前!じゃなくて!どうしたの!?それ!」
「それってどれですか?」
「だからその「クダリ!わたくしを無視するのは止めて下さいまし!」」
「ごめん。衝撃的だっから、つい。」
「あぁ、そのお気持ちなら十分に理解しています。」



話掛けてきておいて、私そっちのけな廃人共に多少いらつきながらも黙って二人の会話を聞いてみた。



「ぼくやる気なくなった…。今日休む。」
「貴方が仕事をしないのはいつものことです。」
「今日はいつも以上。だから冬って嫌い。」
「わたくしは好きです。」
「ノボリムッツリだもんね。」
「ちっ!違います!」
「ノボリの趣味よく分かんない。」
「クダリが子供なだけです。」
「ぼく大人!」



全く分からない!上手い具合に大事な主語が抜けてるよ!段々と話てる内容が気になりうずうずし始めた頃、アナウンスが入るとともに地下鉄が目の前に現れた。二人が残念そうな顔をしていたが、私の方が残念だ。周囲に白い目で見られながら名前を呼ばれたと言うのに、結局呼ばれた理由が分からないのだから。しかし、そうは言っても地下鉄は通常運転なので学校をサボる訳にも行かず、ノボリさんクダリさんに挨拶をして地下鉄に乗り込んだ。



「気を付けて行ってらっしゃいまし。」
「痴漢されたらすぐ呼んでね!地下鉄止めて助けに行くー!」
「職権乱用にも程があります!!!」

***

放課後、ギアステーションの休憩室に足を運んだ。今朝のことも気になるし、今日はいつもより速足だ。



「こんにちはー!」
「こんにちは、名前様。」
「ノボリさんじゃないですか。珍しいですね、こんな時間に。」
「ええ、まぁ…。」
「?」



わざとなのか何なのか、ノボリさんは分かりやすいくらいに目線を私から逸らした。なんだろうと不思議には思ったが、それ以上に私は今朝のことが気になっていた。



「ノボリさんノボリさん、今朝の用事ってなんですか?」
「けっ、今朝でございますか?」
「なんか今声が裏返ってましたけど。」
「そそ、そのようなことは、あっ、ありません!」
「滅茶苦茶どもってるじゃないですか!何ですか!今朝変なことでもありました?」
「いえ、貴方様に限ってそのようなことはございません!」



キリッと無駄にいい顔で言われたが、生憎私の特性はスルースキルなので綺麗に流してやった。ノボリさんのどもり方といい、わざとらしいくらいに目線を逸らしたり、何か隠し事をされているような、ちょっと、面白くない。そんなこと考えるから子供だと馬鹿にされるのだろうけど、思ってしまうものは仕方ない。ノボリさんが焦っておろおろしているが、私は少しばかり困らせてやろうと大袈裟に怒ったような表情をしてみせた。



「ふーん。じゃあいいです。私には言えないようなことなんですね。クダリさんとの秘密ですか?素晴らしい兄弟愛ですね、まさにブラボーですね!ノボリさんのブラコン!」
「なっ!名前様もう一度仰って下さいまし!」
「嫌だ!マゾに目覚め始めてるこの人!」



はぁはぁ急に息を荒げ始めたノボリさんにどん引きした。立ち上がってにじり寄ってくるものだから反射的に逃げてしまう。というか、仏頂面の長身な男に息を荒げられながら迫られたら誰だって逃げ出したくなる。しかし私の奮闘虚しくあっさりと壁際まで追いつめられてしまい、成す術なし。なんだ、この展開は。仕返しでもされたかのように、今度は私がおろおろする番。



「ノボリさん、あの!」
「ああ、全く。貴方様がタイツなどお召しになって…。わたくしの好みを大変熟知していらっしゃって、わたくし感激でございます。」
「は?」
「そうですね、引き裂いても良いのですが前名前様のそのおみ足でわたくしを踏ん「お菓子ー!!!」」



冷や汗が流れ始め、本格的に危機が迫ってくると空気を読んだのか、それとも読まなかったのか、クダリさんが勢いよく入ってきた。勢いが良過ぎて扉が跳ね返っていた。痛そう。



「痛い!…あれ?ノボリと名前なにしてるの?」
「たっ、助けてクダリさん!ノボリさん変!」
「ノボリ兄さん何だか変だよ!!!」



急に流暢に話し出したクダリさんはノボリさん目掛けてすてみタックル。こうかは ばつぐんだ!二人で倒れ伏してる間に私はクダリさんの後ろに隠れた。恐る恐るノボリさんの様子を窺えばバッチリ目が合う。切れ長の鋭い目に睨まれて、こわいかお、もしくは、にらみつけるを食うポケモンの気持ちが分かった気がした。



「……何をするのですか。」
「名前困ってた。てゆーか、ノボリだけ名前とイチャイチャずるい。」
「あれがイチャイチャに見えるクダリさんってなんなの。」
「照れなくても宜しいのですよ。」
「今の発言が照れてるに聞こえるノボリさんってなんなの。」
「名前タイツなんか履いちゃダメ。ノボリが興奮して気持ち悪い。」
「えっ」



この寒さでタイツ履くなとか、どういう拷問ですか。というかタイツに興奮するってなに?ノボリさんホント気持ち悪い。



「なにを言うのですクダリ!真冬に素肌を晒すなど、女性の身にもなりなさい!」
「ノボリさん…!」



さっきあんなに野獣だ変態だと思ってたけど、根はやっぱり紳士なんだ。今だって私みたいな子供を女性だなんて気遣ってくれて…。私ノボリさんに悪いことしちゃった…。



「騙されちゃダメ!ノボリのただのいい訳!本当は名前のタイツ姿見てたいだけ!」
「貴方は年中スラックスですから女性の寒さなど知らないのでしょう。」
「そうですよ!こんな寒さで生足なんて嫌です!」
「ノボリも年中スラックス!」
「名前様、クダリは貴方様の生足が見たいだけでございます。野蛮な狼ですのでそちらにいては危のうございますよ?」
「うっ……。確かにぼくタイツとかニーハイより生足好き。でも、ノボリは逆。タイツとかニーハイ大好き。むっつりだから。」
「えっ」



しゅんとしながら凄いことをカミングアウトしましたよ、クダリさん。思わぬ爆弾の投下により、ノボリさんに向かっていた体はピタリと止まり、二人の間で立ち往生。引きつる顔で無理に笑顔を作ろうにも、クダリさんのように上手くはいかないみたいで、ぴくぴく動くだけだった。



「今朝だってタイツの名前見付けて走り出した!」
「余計なこと言わないで下さいましクダリ!」
「ちょっと、クダリさんその話詳しくお願いします。」
「名前様!?」
「むっつりは黙ってて下さい。」
「ああ!その蔑んだゴミを見る様な目付き!ブラボーにございます!」
「ホントノボリ気持ち悪い。」



それからはこうだ。ノボリさんはどうやら生よりもチラリズムとか絶対領域が好きらしい。反対にクダリさんは生が好き。それで、今日タイツデビューした私を見付けたノボリさんは全速力で私の元に駆けつけ、その姿を拝みにきたのだという。クダリさんは残念に思いながらタイツ阻止に来たのだと言う。今朝のことは、そういうことらしい。うん、凄くどうでもいい!果てしなく下らない!しかも、クダリさんの話を聞いている間ノボリさんの息がうるさい!どんだけ興奮してんだこの人は!



「はぁ、事情は分かりました。とっても下らないですね。」
「確かにクダリの言うことに間違いはありません。しかし、名前様のお体を心配したことも嘘ではございません。」
「あ、ありがとうございます…?」
「ね、タイツじゃノボリが気持ち悪いだけ。やめよ?」
「えー……。でも寒い……。」
「ぼくがブランケット買ってあげる!明日行こう!」
「二人きりなど許しませんよ!クダリにはまだ早すぎます!」
「なにが!?意味分かんないよ!」



その後、二人でどちらが私と明日デートに行くのかで言い合いを始めていた。しかしだ、私は行くなど言っていないし、こんな危ない大人と二人きりになるなど言語道断である。



「私、明日トウコちゃんと約束があるので。」



二人はピタリと喧嘩を止めた。



(トウコ様ですか……)
(トウコかぁ……)
(トウコちゃん貴方一体何者なの?)



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