オリオンの下で PAGE.3
「オリオンは狩の名人で、狩の神・アルテミスと恋に落ちた。
だが、アルテミスの双子の兄・アポロンが、妹を奪われたとオリオンを憎むんだ。
そこでアポロンは二人の仲を裂こうと、アルテミスをそそのかす。
『お前はあの海岸に浮かぶ光も、弓で射ることができるか?』と。
アルテミスはまんまと挑発に乗ってしまい、見事に海岸に浮かぶ光を射抜いてしまった。しかし…」
千葉先輩はそこで、一呼吸おいた。
私はただただ、千葉先輩の話に聞き入っていた。
また千葉先輩が、静かに語り出す。
「しかし、アルテミスが打ち抜いたのは、オリオンの頭だった。
アルテミスはその事実を知るが、どうすることもできない。
だから、せめて自分が馬車で夜空を走る時には会えるようにと、オリオンを星にしてもらった。これが、ギリシャ神話のオリオンの話だ」
千葉先輩は語り終わった後も、切なげにオリオン座を見つめている。
だからなのか、私もつい悲しい気持ちになってきた。
「悲しい…お話ですね…」
「鍵谷さんは、こういう悲恋は嫌いか?」
「それは、やっぱり…。いくら星になって会えるからといっても、ただ見ているだけじゃなくて…。もっとずっと一緒にいたいと思います」
(もし…千葉先輩とそうなったら嫌だよ……)
私はいつの間にか、千葉先輩のことを当てはめて考えていた。
「…そうだな」
千葉先輩が呟くように言う。
そして、急に視線を空から私へと移してきた。
それと同時に、私の心臓がドキッと驚きの音を立てる。
「千葉…先輩?」
「俺も、ただ見ているだけの悲しい恋は嫌だな」
真剣な眼差しで話す千葉先輩に、私の心臓はどんどん早まっていった。
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