彼のほほえみ PAGE.8
千葉先輩は眠り続けている。
私は千葉先輩の顔をぼんやりと見つめていた。
(先輩…目を覚まして…)
私の祈りが通じたのだろうか?
千葉先輩の瞳がゆっくりと開いた。
「先輩…!」
「鍵谷さん…心配かけてすまなかった。」
私の瞳から涙がこぼれ落ちる。
「おいおい、千葉。俺には?」
船橋先生が千葉先輩に声をかける。
千葉先輩はニヤッと笑って答える。
「視界に入ってませんでしたよ。」
「全く…お前は相変わらずだな。さてと、お前の入院中の荷物でも取ってくるかな。じゃ、鍵谷先生、ごゆっくり。」
船橋先生は私達にウインクをして病室を出て行った。
「全く、あの人は…」
千葉先輩が軽くため息をつく。
「随分、仲がいいんですね?」
「あぁ、彼は大学の先輩なんだが入学当初から何かと目にかけてくれて…年齢は違うが親友みたいなものだ。」
「そうだったんですか…」
私は気になっていることを千葉先輩に尋ねてみる。
「あの、先輩…?」
「どうした?」
「船橋先生から聞いたんですけど、ご両親が亡くなられたって…」
「あぁ、もう2年になる。」
「前に、先輩は料理できないって言ってましたよね。ごはんとかはどうされてるんですか?」
「確かに以前は全く出来なかったが、教わるうちに随分と作れるようになった。美味いかどうかはわからないが。」
(教わる?ってことは女の人にだよね。彼女かな…?)
私の表情を読み取ったかのように千葉先輩が言葉を繋げる。
「船橋先生に教わったんだ。女性でないのが残念だが。」
冗談めかして話す千葉先輩に私は驚いてしまった。
(千葉先輩、前より親しみやすくなったなぁ…これも船橋先生の影響なのかな?)
私の中で千葉先輩への気持ちが少しずつ変わっている。
もっと千葉先輩のことが知りたいと思うようになっていった。
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