Kazuki Chiba

あなたという奇跡の存在 PAGE.10


俺はインタビューを受けるため、ベンチを出た所で樹々の消え入りそうな声を聞いた。

慌てて見ると、樹々が倒れていた。

俺は走り出す。

「千葉くん!どこへ?!」

インタビュアーの声など聞こえるはずもない。

夢中で走る俺の後ろから神坂が追ってくる。

「千葉!待てよ!どうしたんだ?!」

俺は神坂の声にすら、反応できない。

しかし、走るスピードは神坂の方が断然速い。

追いつかれ、肩をつかまれた。

「神坂!離せ!どんな処分でも後から受ける!今は見逃してくれ!」

神坂の手が離れ、俺は再び走り出した。

スタンドに着くと、樹々の周りにいるスタッフや観客達が騒然としていた。

「どいてくれ!」

俺は掻き分けるように樹々の元へと向かった。

「樹々!俺だ!目を開けてくれ!」

樹々を強く抱きしめる。

周りのスタッフが俺に声をかける。

「急に倒れられたそうです。今、救急車呼んでます。動かさない方が…」

「わかってる…」

俺は樹々の頭を支え、抱きしめ続けた。

しばらくして、救急隊員が到着した。

「今から搬送します。患者さんをこちらに…」

俺は頷き、担架に樹々を乗せた。

そして救急車に乗り込み、ずっと祈った。

(樹々…目を開けてくれ…)



病院に到着し、俺は樹々を見送った後、外へ出た。

ベンチコートのポケットから携帯を取り出し、樹々の家に電話をした。

事情を説明すると、すぐに駆けつけてくれると返事をもらった。

電話を切り、続けて神坂にかけるが、留守電になる。

仕方がないのでメールを入れ、俺は待合室へと戻った。

しばらくすると、診察室のドアが開き、中へ入るように言われた。

「心配はいらないよ。疲れからくる貧血だね。ただ、少し体質が弱いみたいだから大事をとって入院してもらうよ。」

「はい。ありがとうございました。」

俺はストレッチャーに乗せられた樹々と一緒に病室へ行く。

樹々をベッドに移すと看護師は出て行った。

静かな病室に眠る樹々。

そっと樹々の手を握り、顔を見つめる。

青白い顔をしていた。

俺はどうして、止めなかったのだろう。

後悔ばかりが募る。

優勝して嬉しいはずなのに、全く嬉しくない。

樹々の笑顔が見れないとこんなに悲しいものなのか?

俺は夢のために君に無理をさせた…

気持ちが通じ合ってると思っていたのは俺の独りよがりだったのか?

君がこんな辛い目に合うなら、俺は…



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