あなたという奇跡の存在 PAGE.9
いよいよ選手権決勝戦。
千葉くんが言ってた通り、時折雪混じりの雨が降る。
両親も私の体調を心配していたが、今までの千葉くんとのこと、千葉くんへの想いを話し、国立へ来ることを説得し、了解を取ってきた。
私が今しないといけないのは千葉くんへの心を込めた声援だけ。
千葉くんを目で追い続けた。
試合が動かない…
後半に入ったあたりから、雪に変わり、気温も下がる。
視界は悪くなり、水分を多く含んだ芝に足を取られる。
点が入らないもどかしさにお互いラフプレーも多くなってきた。
「見てられないよ…」
回りの呟きが聞こえる。
(私は最後まで見守る。千葉くんと一緒に闘う…)
試合はそのまま動くことなく、PKに突入する。
3‐3で迎えた最後の5人目。
先攻の相手チームは外した。
後攻の陵泉は…
千葉くんだった。
準備をする千葉くん。
(神様!私に力を貸して!)
「千葉くん!がんばって!!!」
満面の笑みを千葉くんに向けた。
私の方を見た千葉くんは…
微笑んでいた。
ボールを置いた千葉くんは後ろに下がり、天をあおいだ。
そして…走り出す。
…国立にホイッスルが響き渡った。
陵泉のチームメイトが次々と千葉くんに駆け寄る。
千葉くんはみんなの中心で押し潰されていた。
まるで神様が祝ってくれるかのように、雲の隙間から光が射し込んでいた。
表彰式も終わり、一旦、ベンチへ下がった陵泉サッカー部員。
ふと、近くの女の子達の会話が耳に聞こえた。
「やっぱ、千葉くん、かっこいいね!」
そっと見ると、手芸屋さんで見かけた女の子だった。
「告白して断られたんでしょ?」
「うん。でもこんなかっこいい千葉くん見たらあきらめきれないよ!」
(えっ?何…?)
そこへインタビューを受けるために千葉くんがベンチから出てきた。
女の子が叫ぶ。
「キャー!千葉くん!かっこいい!」
私は目の前が真っ暗になり、千葉くんの姿が見えなくなった。
それでも振り絞るように声を出した。
「ち、ち…ば……くん…」
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