Kazuki Chiba

あなたの言葉 PAGE.4


部室に入ると私は座り込んでしまった。

千葉先輩はそんな私に黙ってタオルを差し出してくれる。

タオルに顔をうずめるとフワッとするいい香りに少し落ち着くことができた。

「…千葉先輩、すみません。練習中なのに…」

「いや、構わない。それより、何を言われたんだ?」

私は千葉先輩に話した。

「…俺も疑問に思っていたんだ。君はなぜ、ここに来たのか。君ほどの実力なら女子サッカーのあるところでプレーした方がいいのではないかと思うが…」

「私、ナショナルチームに入るのが夢なんです。女子の中で揉まれるより、ここでみっちり鍛える方がより良い結果が出ると思って…」

「そうか…」

「それなのにあんなふうに言われて…くやしい。」

「部外者の言うことは気にするな。君と君を理解してくれる人の言うことを信じればいい。」

「はい…」

「俺にも彼女の気持ちがわからないでもない。君に嫉妬したのだろう。それぐらい君と風間は仲がいいからな。」

「えっ?それって、どういう…」

千葉先輩は大きく息を吐いた。

「俺は風間に…いや、風間だけでなく、神坂にも嫉妬している。君があいつらと話をしている時の君の楽しそうな笑顔が俺には眩しすぎる。」

千葉先輩は一旦、言葉を切り、繋げた。

「俺では君をあんなふうにはできない。」

目を伏せる、千葉先輩。

「私を楽しませて笑顔にしてくれる人はたくさんいるけど、泣いてる私をなぐさめ、励ましてくれるのは千葉先輩だけです。」

今までためていた千葉先輩への気持ちが溢れ出して止まらない。

「私にはお兄ちゃんがいるから、お兄ちゃんのように楽しませてくれる人は他にはいらない。私が求めてるのは、私の心の支えになってくれる人なんです。」

最後に振り絞るように言った。

「…私、千葉先輩が好きです。」

その瞬間、フワッとタオルと同じ香りがした。

千葉先輩に抱きしめられていた。

「本当に俺でいいのか?あいつらみたいに楽しい話などできないが…」

「私は千葉先輩の横にいるだけでいいんです。…それはお兄ちゃんがいるから大丈夫。」

ニコッと微笑む私に、千葉先輩はフッと笑ってやわらかいキスをくれた。

楽しい言葉なんてたくさんいらない。

私の心に刻み込まれる、あなたのその言葉だけで…



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