エサをあげると強くなる? PAGE.2
あれからしばらく仕事が忙しくて遊びには行っていない。
今日も残業だった。
ようやく終わり、帰宅中、高校の門のところから一人の男の子が出てきた。
(あれ?この子確か…)
向こうも私に気付き、ニッコリ笑った。
「こんばんは。鍵谷先輩。」
「こんばんは。えっと、名前きいてなかったよね。」
「2年の佐伯文也です。先輩、残業ですか?」
「うん。忙しくてね。佐伯くんはこんな遅くまで練習?」
「インターハイ近いから、毎日これぐらいです。」
「そっかぁ。もうそんな時期なんだ。現役離れるとすぐに忘れちゃう。で調子はどうなの?」
「調子はともかく、活動始めたばっかだから、勝てそうにないですよ。」
「でもいい動きしてたから、来年は優勝かな?」
「だといいな…」
目を細めて嬉しそうに笑う佐伯くん。
(随分大人っぽいなぁ…)
なんて、考えていると意地悪そうな笑顔に変わる。
「俺さ、エサがあるとがんばっちゃうタイプなんだよね。」
「あっ、それなら差し入れ持って行くって先輩とも約束してあるの。何がいい?」
佐伯くんの長い人差し指がスッと私に向けられる。
「アンタがいいな。」
「…大人をからかうもんじゃないわよ。」
「俺、こう見えても真面目なんだよ?」
横に並んでいた佐伯くんが急に私の正面にまわり、私の目線に合わせるようにかがんだ。
「名前、何て言うの?」
突然、目の前に現れた佐伯くんの顔に戸惑う私は返事できない。
「言わないとこのままキスしちゃうよ?」
「…樹々。」
慌てて佐伯くんに名前を告げた。
「樹々ちゃん、俺、マジだからね。」
スッと顔が離れ、元通り横に並んで歩き出す佐伯くん。
3つも年下の男の子に翻弄され、帰り道ずっとドキドキが止まらなかった。
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