春風に乱れて PAGE.6
先輩は芝生の上にゴロンと大の字になった。
気持ちよさそうな表情をしている。
「鍵谷、風が吹いてて気持ちいいぞ。お前も横になれよ。」
「私はいいですよ。こうしてても気持ちいいですから。」
先輩が突然、私の腕を強く引っ張った。
私は先輩の体に覆いかぶさるように倒れこんだ。
恥ずかしくて、何も言えないし、動くことすらできない。
先輩はそんな私をギュッと抱きしめた。
「…樹々、俺はお前のこと好きだ。これからは俺だけのためにクッキーを作ってくれないか?」
「………先輩。」
「ん?」
「私、おまけじゃないですよね…?」
「おまけ?何のだ?」
「…料理の。」
先輩の体がピクッと動いた。
そして私の体を抱き起こし、私の瞳をジッと見つめる。
いつも明るくて優しい近藤先輩の瞳ではなく、冷たい瞳だった。
「じゃ、俺がお前の料理欲しさにこんなこと言ってるとでも思ってるのか?」
声まで冷たい。
(どうしよう…完全に怒ってる…)
私は泣きそうになりながらも気持ちを言葉にした。
「先輩が私の料理をいつもおいしそうに食べてくれるのは、すごく嬉しいです。でも先輩には私なんかよりもっとかわいい人の方が似合ってると思うから…」
「樹々、それはさ、他人から見ての話だろ?お互いが好きなら俺はそれでいいと思う。お前の料理は単なるきっかけだ。俺はお前の明るい性格や一生懸命な所がかわいいと思ってる。料理だって、ただ美味いってだけじゃなく、愛情を感じるんだよ。俺はお前の全てに癒されてる。これがお前のことを好きな理由だ。」
先輩の瞳はいつもより、穏やかで優しかった。
私の瞳から涙が溢れて止まらない。
「…私も先輩のこと好きです。」
先輩は私の涙をそっと拭ってくれた。
「かわいいよ、樹々…愛してる…」
先輩の唇が私の唇に重なる。
幸せを感じて熱くなった体に、薫風が吹き抜けていった。
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