WHITE FLOWERS PAGE.1
夏のインターハイでのこと。
試合時間が近づいていた私は、急いでいた。
重くて大きな荷物を抱え走っていると、躓いてしまった。
(ダメだ!転ぶ!)
とっさに目をつむる。
しかし、いつまで経っても痛みはやってこない。
おそるおそる目を開けると、見知らぬ男の人に、抱きしめられるような感じで支えられていた。
私はびっくりして言葉が出ない。
「大丈夫ですか?」
男の人は優しく微笑んでくれた。
「す、すみません。もうすぐ試合で急いでたので…」
「そうでしたか。試合前にケガしなくてよかったですね。」
「はい。本当にありがとうございました。」
「試合がんばってくださいね。」
「はい!」
頭を下げて、また私は走り出した。
今日はよっぽど調子がよかったのだろう。
個人戦で優勝した。
嬉しさを抑えながら、宿舎に戻ろうと会場を後にしたところで、後ろから声をかけられた。
「鍵谷さん。」
後ろを振り返ると、転びそうなところを助けてくれた人だった。
「あっ、さっきはどうもありがとうございました。えっとどうして名前を?」
頭を下げる私に、微笑んでくれた。
「試合見てましたから。優勝おめでとうございます。強かったですね。特に決勝戦はいい試合でしたよ。」
「あっ、いえ。今日は何だか、調子がよくて。あの時、ケガしていたら優勝できなかったです。本当にありがとうございました。」
「樹々ー!行くよー!」
部員から呼ばれた。
「じゃ、私、行きますので。本当にありがとうございました。」
「これからもがんばってくださいね。」
その人の優しい微笑みが私の心の中に刻み込まれた。
もう会えない人なのに…
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