WHITE FLOWERS PAGE.2
着替え終わったお嬢様は早速、氷の張った湖へ向かわれた。
私もその後を追った。
湖のほとりにデッキチェアとテーブルを用意して、お嬢様が滑っておられるのを眺めていた。
本当に嬉しそうな表情だ。
西園寺家にお越しになってから、お嬢様教育やダンスレッスンなど文句ひとつ言わずにがんばってこられた。
慣れぬ環境に戸惑いも多くあったはず。
でもいつも笑顔で私やご兄弟達に接してこられた。
今、私が見ている表情が今までで一番素敵な笑顔だと心から思った。
しばらく見ているとお嬢様は私の元へやって来た。
「御堂さん、一緒に滑ろうよ!」
思いがけない言葉に私は、目を丸くして驚く。
(何て言ってごまかそう…)
「お嬢様、私は靴を用意しておりませんので…」
「ふふっ。そんなことだろうと思って…」
お嬢様が足元の鞄に手をかける。
「はい、どうぞ。」
…スケート靴だった。
「これは、私のためにですか?」
「うん!修一お兄ちゃんに用意してもらったの。ほら、手紙付きだよ。」
私は封を開ける。
![](//static.nanos.jp/upload/k/kazukichiba/mtr/0/0/20100521023856.jpg) (…修一、恨むぞ。)
ふぅ。と大きく息を吐いた。
「お嬢様、実は私…」
「知ってるよ。スケートしたことないんだよね?」
「どうして、それを?」
「修一お兄ちゃんに教えてもらったの。お兄ちゃん、『要くんをよろしく。』って言ってたよ。」
私は観念した。
「お嬢様、私に教えていただけますか?」
「もちろんです。喜んで。」
私は靴を履き替える。
するとお嬢様が私の足元にかがみ、靴のひもを結び直し始めた。
「御堂さん、これじゃ足首がしっかり固定されないから、痛めちゃうよ?」
私は、遠い昔を思い出し、クスッと笑った。
「私、おかしいこと言ったかなぁ?」
「いえ、瞬様がお小さい頃に私が靴ひもを結んで差し上げてたことを思い出したのですよ。私は、今、いい大人なのに、それが少しおかしくて。」
「ふふっ。私は、御堂さんにお世話してもらうけど、御堂さんはそういうことないもんね。じゃあ、今日は私が執事になろうかな?」
靴ひもを結び直したお嬢様は私にニッコリと微笑んだ。
「さぁ、できましたよ。歩きにくいですからお手をどうぞ。要さま。」
私はむずがゆい気持ちを抑えながら、素直にお嬢様に手を預けた。
「ありがとうございます。樹々さん。」
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