軍資金

この企画を始めるために用意してあった資金、つまりデビューへ向けての軍資金は100万円近くありました。
このお金だけでデビューするまで生活できるとは最初から思っていたわけではありませんでしたが、僕が予想していたよりも早くに底をつこうとしていました。

今回、初めて気づいたのですが、人というのは何もしなくてもお金がかかるものだということです。
この国の国民として暮らしている以上避けて通れないのが、税金、年金、健康保険の支払い。
いっそのこと払わなきゃいいやと思ったりもしました。
でも僕が払わないことによって、誰かが困るかもしれない。
そう思うと払わずにはいられませんでした。

この企画が始まって半年を過ぎた頃にはとうとうお金がなくなってしまいました。
本音を言うと、最初の半年間は作詞講座の課題をやって、ピアノのレッスンをして、とりあえずそれだけやっていればそのうち何とかなるだろうみたいに軽く考えていました。
でもそれだけでは前に進めない。
もっともっと外へ出ていろんなことを吸収して、もっともっと勉強しなければならない。
ダメでもともと、いつでもリタイアできるし、そのうち何とかなるという考えから、このままじゃダメだということにお金を失くしてみて初めて気がつきました。

まさかアルバイトをすることになるなんて…。
予想外の展開でしたが、もうそんなことを言ってはいられません。
仕事をして収入を得なければ生活はできないし、当然メジャーデビューへの道も遠くなることになります。
無料の求人誌を見て、必死に仕事を探しました。

数日後、某ファミレスで採用が決まりました。
このバイト先まで行くのに家からバスで最寄駅まで出て、電車で7分ぐらいの所です。
家から駅までは徒歩で50分ぐらいですが、これは節約のために歩いて行くとして、問題は電車をどうするかでした。
もう電車に乗るための交通費は残っていませんでした。

最初は全て歩きで行けばいいと思ったりもしましたが、そうすると片道だけでも2時間以上はかかります。
さすがに毎日のことだけにキツイと思いました。
悩んだ末に思いついたのが、この企画を始める前に知人から戴いた商品券。
僕がメジャーデビューをするために仕事を辞める際、「何かの足しにして」と戴いたもので、企画を終了した時に何か記念になる物をこの商品券で買おうと心に決めて、大切に保管してあっただけに売るのをためらったですが、今すぐお金を手に入れる方法を他に思いつかないのなら仕方ありません。
生まれて初めて質屋の扉を開けることになりました。

初めての質屋はとても緊張しましたが、一ヶ月分の定期券が買える金額と交換してもらえました。

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