豹変

引っ越しが終わり、もう二度と来ることはないであろうお店を後にした。
ほんの数週間ではあったけど、このお店で僕は過ごした。
様々な思い出が溢れ出してきて、後ろ髪を引かれる思いだった。
そんな感傷に浸る間も無く、その足で不動産屋へ解約の手続きをしに向かった。
お店を借りる時、杏伍も一緒に居たので、不動産屋の担当の方とは面識があったこともあり、解約の話は杏伍が進めた。

話の途中で不動産屋が杏伍へ向かって「先日の保証人の件ですが…」と何やら話を始めた。
僕は最初、何のことだかよく解らなかったのだが、側で話を聞いているうちに話が読めてきた。

杏伍は僕に無断で保証人を解約する手続きを進めていたのだ。
しかも、本来なら保証人が持っているはずのない、お店の契約書のコピーまで僕の知らないうちに持っていた。

そんな状況の中、僕は沖縄出発前のある出来事を思い出していた。
それは、沖縄出発を数週間後に控えていたある日、杏伍から電話があった。
将来の結婚相手である彼女にお店の保証人になったことがバレてしまい、彼女が保証人になることは大反対で、このまま保証人になるのなら結婚はできないと泣きわめき、修羅場になっているとのこと。
僕は杏伍が彼女に内緒で保証人になったことは知りませんでしたし、きちんと説明しているものと認識していました。

僕は、今更そんなこと言われても困ると返事をした。
もう保証人協会の審査も下りているし、何よりもお前達の結婚のせいで僕は沖縄へ単独で行かざる得ない状態になったのに、ここへ来てまだそんなワガママを言う彼女に対して僕は怒りを覚えた。
僕は、もうこれ以上裏切らないで欲しい、せめて保証人の約束だけは守って欲しいと懇願した。
説得の末、杏伍は彼女との結婚を破棄してでも、この保証人の約束だけは最後まで守り通すと約束してくれたという出来事を僕は思いだしたのだ。

それにも関わらず、保証人の解約をしようとしていたなんて……。
僕は、杏伍に不信感を抱いたが、この時は解約することに対して、不動産屋や大家さんに申し訳けない気持ちの方が強く、深く考えられなかった。

解約手続きを終え、不動産屋を出てから、僕たちは那覇空港へ向かうため、国際通りを歩いていた。
ふいに杏伍を見ると、ついさっきまでの優しい表情から険しい顔に変わっていた。
僕は「どうしたの?」と聞くと「別になんでもない」と、素っ気ない返事が返ってきた。

あまりの豹変ぶりに、ここで僕は全てを悟った。
杏伍は僕を必要として迎えに来たのではなく、自分の結婚のために、保証人を解約するか、お店自体を解約する目的で沖縄へ来たことに……。

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