新たな裏切りの幕開け

改めて沖縄で生活してお店を経営する決意をした僕は、食材の仕入れ先を探し当て、厨房機器も何とか安値で買える段階まで話は進んでいた。
土台はまだまだかもしれないが形にはなってきている。
この分なら来月にはオープンできるかもしれないと期待も持ててきた。

そして、改めてお店の経営計画、資金を見直すことにした。
何度も何度も計算してみたが、どうしても杏伍が抜けた分のお金が足りない。
僕は何とか資金を集めようと助成金を申請してみることにした。
ところが僕の要領が悪かったために助成金を受けることが出来なかった。
例えば、何か経営に必要な物を購入する前に申請しなければならなかったようだ。
僕の場合は、お店の賃貸契約を結ぶ前に申請するべきであった。
過ぎてしまったことを悔やんでも始まらない。
残された道は借金しかなかった。
借金をする前に親に相談する。
これは沖縄へ発つ前に親と約束していたことであった。
僕は早速、親に相談してみたが、「借金してまですることじゃない、すぐに帰って来い!」と言われてしまった。


悩んでいるうちに杏伍が僕を迎えに来てしまう前日を迎えた。
僕は借金してでもこのまま沖縄に残るべきか、それとも帰るべきなのかの判断を明日、杏伍に相談して決めることにした。

前日の夜、僕は民宿のおじさんに「本土から友人が僕を訪ねて来るので、3日間留守にしますけど、僕の部屋は空けておいてくださいね」と言い、「部屋はちゃんと空けとくから行っておいで」とおじさんは返事をしてくれた。
今にして思えば、これが民宿のおじさんと交わした最後の会話になるなんて、この時は本当に予想もしていなかった。


2006年1月25日、僕は那覇空港まで杏伍を迎えに行った。
到着出口前で待っていると、見覚えのある顔が出で来た。
僕は、杏伍に会うなり、久しぶりの親友との再会にただただ嬉しくて、沖縄に来てから今日までのことを声が嗄れるまで喋りまくった。
そして、僕はこのまま沖縄に残りたいと杏伍に告げた。
杏伍は少し曇った表情で「せっかく迎えに来たんだから一緒に帰りたいし、もう沖縄の存在全てが重たい」と言った。
杏伍が思っていたよりも僕が沖縄に染まっていたことが面白くないのだろうか?
僕は沖縄で様々な経験をしたのに対して、杏伍にしてみれば、あの沖縄出発前の"行かなくても済む方法"を考えていた時から、僕との時間は止まっていたのだから、僕の心境の変化に驚くのは無理もないかもしれない……、この時、僕はそう単純に思っていた。
ところが、これが僕を落とし入れるための新たな裏切りのシナリオのスタートになろうとは、この時はまだ知る由もなかった……。

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