民宿

僕が借りたお店はビルの2階にあり、トイレは共同であった。
もちろん住居ではないのでお風呂はない。
話は少し前後してしまうが、あの脅迫状の一件でやる気を失くした僕は、お店で寝泊りすることに抵抗を感じるようになっていた。
それにいつ大家さんが顔を出すか分からないし、なんだかとても落ち着かない。
だからといってホテルに長期滞在するのは勿体ない気もする。
そこで少しでもお金を浮かそうと、あの脅迫状の一件から、那覇市役所の近くにある民宿に泊まってみることにした。

僕の性格的に考えて、民宿でお世話になるのは気が引けたし、何よりも民宿に泊まることそのものが初めての経験だった。
そんな僕の不安とは裏腹に、そこの民宿のおじさんとおばさんはとても気さくで親切な方でした。
僕がお店を経営するために沖縄へ来たことを言うと、「このままここに住んじゃえばいい、安くしておくよ」と言っていただきました。
他にも、沖縄の習慣に詳しくない僕に、沖縄ではこれがウケるよ!とか、メニューの価格はこうした方がいいとか等、細かくアドバイスまでくれました。

そんなある日のこと、僕が中古厨房機器のお店を探しているとおじさんに言うと、ご親切に電話帳で調べてくれました。
おじさんに教えられたお店は浦添にあり、僕はバスで行くつもりで民宿を出ると、おじさんは自転車を貸してくれました。

僕はその自転車に乗り、国際通りから浦添へ向けて出発した。
半ばビジネスで浦添に向かうはずなのに、僕はすっかりサイクリングの気分になっていた。
ペダルを漕ぎ、沖縄の風を感じ、空を仰いでいると、沖縄に染まっている自分がいるような気がした。
途中、観光客らしき人から何回か道を聞かれることがあった。
自転車に乗っているせいもあるのかもしれないけど、おそらく僕を沖縄の人と思われたからだろう。
そんなちょっとしたことが嬉しかった。


沖縄移住を決めてから今日まで、紆余曲折を繰り返してきたけど、Sさんや民宿のおじさんとの出会い……、僕は自分のためにも、応援してくれてる人のためにも、何が何でも沖縄で骨を埋め、成功することを改めて誓った。
そして、この時の思いは叶わず、結果的には失敗に終わってしまった沖縄移住だったけど、この時、出会った人には本当に今でも感謝しています。

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