沖縄移住初日

僕は、杏伍が行くなと言ったから沖縄へ行きたくなくなった訳ではない!
沖縄で生活したいと心の底から思ってる。
でも沖縄移住は元々、二人で行うはずだったもの。
どちらかが欠けても成り立たないものであった。
僕はその欠けてしまった部分の穴埋めもせずに意地だけで決断してしまった。
時には意地や勢いで行動するのも悪くないだろう。
だが、こうして杏伍と仲直りしてしまうと頼る術が無くなってしまった。
8月に杏伍が行かないと言いだした地点で、移住計画をもっと時間をかけて見直し、じっくり準備をすべきだった。
実際、杏伍が抜けた分の資金調達はできていない状態だった。
こんな状態で沖縄移住してお店を開くなんて無謀もいいところだ。
ところが、これらのことに気付くのが遅過ぎた。
もう二人だけの問題ではなくなっていた。
不動産屋さんや僕のために備品を買い取ってくれた大家さん、両親や友達、みんなを巻き込んでしまった。

僕も杏伍も出発時間のギリギリまで、みんなが納得する沖縄へ行かなくても済む方法を考えた。
ところが、有効な方法が思い付かなぬまま時間だけが過ぎていき、とうとう出発の日の朝を迎えてしまった。
もう今更ジタバタしてもしょうがない。
一度は行くと決めたんだから行く!
僕は覚悟を決めて、家を出発した。

空港へ向かうタクシーの中で携帯電話鳴った。
杏伍からだった。
「近いうちに必ず迎えに行くから、それまで頑張ってて」と言った。
僕は、もう覚悟を決めたにもかかわらず、ついちょっと前に母親とお別れをした後の淋しさの余韻からか「うん、待ってる」と答えてしまった。


夕方、那覇空港に到着。
休む間もなく、その足で借りたお店へ向かった。
なぜなら、大家さんとの顔合わせの約束があり、その時間が迫っていたからである。
空港からタクシーに乗り込み、窓から流れる風景を僕は見ていた。
いつもの観光で来る沖縄とは、どこか違って僕の目に映った。
これからはこの街の空気を吸って、寝起きして、仕事をして生活していくんだ、しなければならないんだと思った。

約束の時間を少し遅れてお店に到着した。
ウチナータイムと聞いたことはあるが、この時はもう既に不動産屋さんも大家さんも僕の到着を首を長くして待っていたようだ。
僕は遅刻のお詫びと簡単な挨拶を済ませ、世間話を交わした後、正式なお店の引き渡し日が16日と告げられた。

こうして初日はあれよこれよで過ぎ去って行った。

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