引っ越しの夜

2005年11月、不動産屋から電話がかかってきた。
仮契約した物件、前の借主がお店の設備を買い取って欲しいと主張してきたとのこと。
その為、前の借主との交渉に時間がかかり、物件の明け渡しが遅くなりそうとのこと。

それはそれで僕も好都合だった。
仕事をもうしばらく続けたかったし、こっちにいれば給料が入る。
自己資金は少しでも多い方がいいと思ったからだ。
でも、僕が好都合に感じた理由はそれだけではなかった。
なんだか沖縄移住が遠のけば遠のくほどに僕は妙な安堵を感じる。
それがなぜそう感じてしまうのか、この時は自分でもよく解らなかった。

その後、大家さんが設備を前の借り主から買い取って、僕にタダで使用させてくれることで話は決着した。
そして、2006年1月10日に入居が決まった。
つまり正式に移住日が決定した。


年が明けて2006年1月8日。
この日は僕の荷物が沖縄へ運び出される日だった。
午前中、引っ越しの荷造りをしていると電話が鳴った。
電話の相手は杏伍だった。
引っ越しを手伝いたいと申し出て来た。
僕は、もう簡単に会うこともなくなるのだからと思い、杏伍に手伝いをお願いした。

お昼過ぎ頃、引っ越しの業者が現れ、僕と杏伍で荷物を運ぶ手伝いをした。
荷物が運び出された後の僕の部屋は殺風景になった。
それを見て僕は、本当に沖縄移住するんだと実感したのと同時に妙な寂しさを感じた。

引っ越しが終わってから、近所のファミレスで杏伍と夕食をとることにした。
食事をした後、しきりに「本当に行っちゃうの?」と杏伍は聞いてくる。
僕は「もう決めたことだから……」と言い返す。
そんな会話が何度が続くうち、突然、杏伍が「このまま沖縄へ行かないで、こっちでずっと親友でいて欲しい」と言い出した。
僕はもう訳か判らなくなった。
僕は最後まで杏伍には悪者でいて欲しかった。
杏伍が悪者だからこそ沖縄移住も頑張れるような気がしていたからだ。
それに、去年の10月、沖縄(移住準備)から帰ってから、杏伍が僕と連絡を取らなかったのは、てっきり杏伍に嫌われてしまったからだと思っていた。
それに対しての杏伍の答えは、裏切ってしまった罪悪感から、連絡しにくかったからだそうだ。

それから、去年の8月の杏伍の裏切りから今日までのことをお互い話合った。
話していくうちに、どうやら全ては僕の勝手な思い込みであり、誤解だったことに気が付いた。
ずっとお互いに抱えていたわだかまりが解けていき、僕たちは仲直りすることができた。
良く考えてみたら、確かに僕だって一人で知らない土地へなんか行き…た…くない……。
ここで気付いた。
裏切った杏伍に対する意地と当て付けだけで、決断した沖縄移住だったことに……。

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