書いてみたやーつ
わたしの神さまをご存知で?


苗字名前さん、という女子がいる。

二年の三学期に暴力事件を起こしてE組に落とされた人だ。
何でも、男子高校生数名と教師一人を病院送りにして、本校舎の進路指導室をひとつ、ぐちゃぐちゃに破壊したのだという。
海外の血が入っているという彼女は、この年の女子にしては背が高く、スタイルも良く、キリリと鋭い瞳は青緑色で、『そこにいるだけ』で人の目を引く。確か、成績もそれなりに良かったはずだ。
その彼女が前述したようなショッキングな事件を起こしたということで、二年の終わり、彼女は校内で知らない者はいない、というほど有名になった。
元々素行は余り良くなくて、しょっちゅう不良と喧嘩している、なんて噂もあったらしい。『いつかやると思った』という意見も出ていた。
僕自身は彼女を遠巻きに見たことしか無くて、『あんな綺麗な人がそんな恐ろしい事件を起こすものだろうか』と疑問に思っていたものだが…三年に上がり、同じクラスになってから、彼女の怖さを少し理解したエピソードが、一つある。

――ある朝。学校へ行く途中、高校生に絡まれた苗字さんを見かけた時のこと。


「…邪魔だ」
「まーまーそう言わないでさ!その制服、椚ヶ丘の子でしょ」
「美人だねー!君、目の色青くない?背も高いし、もしかしてハーフとか?」
「お友達呼んで遊びに行かない?俺らさー、エリート候補な可愛い女子とお知り合いになりたいんだよねー」

五人くらいの男子高校生が、苗字さんを囲んでナンパしていたらしい。苗字さんは結構真面目な人なので、登校を邪魔されて苛立っているように見えたが、高校生達は気付かずに肩を抱いたり顔を近付けたりしていた。
…今思えば、なんとも命知らずである。

「…どうやら、聞こえなかったみてーだな。もう一回だけ言うから、今度は聞きのがすなよ」

当時僕は苗字さんがどんな人か知らなかったから、助けに入った方が良いのかとか、誰か大人を呼んだ方が良いのかとか、そんなことを考えつつケータイを取り出してはらはらしながら苗字さんの様子を見ていた。
――けれど、実際は。

「いいか、私は…」

――助けが必要なのは、高校生達の方だった。
【苗字名前の三秒クッキング〜。
まず肩を抱く男の顔面に裏拳。同時に顔を近付ける男の鳩尾に膝蹴りをいれます。
二人がくずおれたら、他の三人が反応する前に膝蹴りした方とは逆の足を伸ばしてやや体を捻りつつ一人の首を刈り取るように回し蹴りをきめます。
最後に体勢を整えてからもう一人の顎を蹴り上げ、最初に裏拳を入れた男を踏みつけ、一人だけ無事なまま残して完成です!
『男子高校生の叩き』でした!】
…そんなアホらしい雑念が頭を過るほど鮮やかなお手並みだった。ちょっと自分が見ているのが現実なのかアクション映画なのかわからなくなるくらいの身のこなしだっだった。

「…邪魔だっつったんだ。死にたくなきゃあさっさと失せな」

苗字さんはとどめに、何もされていない最後の一人に向かってぶちのめした四人を蹴り飛ばす。
そしてハエの死骸でも見るような目で男子高校生達を見下し、腰を抜かして座り込んだ彼らの顔のすぐ脇に蹴りを入れて脅しをかけると、忌々しそうに低く告げた。

「三度目はねえぞ…」
「すいませんでしたあああああっ!!」

倒れた四人を引き摺って逃げていく男子高校生を見送ると、苗字さんは大きな舌打ちをして登校を再開した。
何が怖かったって、烏間先生の体育はまだだったのに四人の男子高校生達を一瞬で倒してしまう程強かったこととか、喧嘩の動きや脅しのかけ方が凄く手慣れていたこととか、男子高校生達を見る視線のブリザード具合とかもそうだが。
なによりも、偶然聞こえてしまった…いや、聞こえるように言ったのか。御幸さんが最後にぼそりと告げた言葉に、僕は一番恐怖を感じた。

「…制服と顔、覚えたからな」

制服を覚えたということは、学校を特定出来るということだ。顔も覚えているなら、直接乗り込むことも可能だろう。
次やったら学校まで押し掛けて殺す、という副音声が聞こえた気がした。
どう考えてもナンパしてきただけの相手にするものじゃない、あまりに苛烈な対応。その恐ろしさが、苗字さんの印象として僕の中に強く残ったのだった。


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