わんぴーす
上陸


小さな島が見えて来たのは、太陽が西の水平線に沈み始めた頃だった。

港らしき場所に小舟をつけて陸地に降りると、魔法で指定した通りそれは忽ち火が出て燃え尽きた。近くを通った人が目を見開いていた様な気がしたが、それは放置する。
少し進むと、町があった。
人々の雰囲気は『あちら』と殆ど変わらない。町も、どことなくハルジオンと良く似ている。同じ港町だからだろうか。

「まずは換金、で、資金作りして、宿探す」

旅をする直前は報酬が現金でなく宝石や宝飾品で払われる仕事を選ぶ、という癖は、貨幣の違うエドラスでお金を得る為についたものだった。
見知らぬ土地だろうと、宝石や宝飾品は質の良いものであればその美しさに価値を見出だされる。
余る程宝石が溢れる鉱山町だって、綺麗な宝飾品であれば売れた。文化が似ているこの町であれば、問題なく高値で売れるだろう。


その予想は、見事に当たっていた。

「5000万…ベリーっていうのはここの貨幣の単位かな」

カバンに大量の紙幣を入れておくのは怖いので、少しだけ財布に入れて残りは魔法空間に投げ込んだ。
八百屋や魚屋を冷やかして、何となく貨幣価値は理解した。ベリーとやらはジュエルとほぼ変わらないと考えて良いだろう。
これだけあれば暫く保つだろうと考えて、今度は宿に思考を移した。もう日も沈んでしまったのだし、急がないと野宿するはめになる。

「…今から行って、まだ部屋空いてるかな…」

宿の場所は、質屋のついでに聞いてあった。
大通りに出て、港と逆向きに進んだ先にある大きな酒場。そこが、宿も兼ねているらしい。
『海賊も多い場所だ、ねえちゃんも気をつけな』と忠告されたが、まあ何とかなるだろう。ギルダーツ並ならともかく、ただのチンピラやゴロツキなんかに負ける程、私は弱くない。これでもS級魔導士なのだから。
…そういえば、ギルダーツとは最近会ってなかった。久々に飲みたいな、なんて、少し年上の親友を思い出しながら、私は宿があるらしい方向に足を向けた。



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