わんぴーす
交渉開始


食堂。
船長は人魚を椅子に降ろすと、コックに紅茶と自分用にコーヒーを淹れさせ、刀を持ち出して来た。
そうしてにやついた顔のまま向き合う位置に座ると、人魚に話を促した。

「…本題に入る前に、誤解を一つ解いても?」
「誤解?」

人魚は自分の尾を指し、首を傾げる。
上目遣いで小首を傾げる動作に、美人がやるとぐっとくるな、と隣のシャチが小さく囁いてきたので、心から同意しておいた。

「私は、人魚ではありません」
「…は?」
「これは私の…まあ、能力の様なものです」

能力とはどういう事か、と船長が問うと、人魚は右手の指を鳴らした。
ぱちん、という音が響くと、人魚の尾が光りだし、その眩しさに少し目を閉じる。
光が治まった後に目を開けると、目の前には人魚ではなく、人間の女が座っていた。
先程まで魚の尾だった下半身は、膝までスリットの入った、丈の長い細身のスカートと、ハイヒールを履いた細い足になっていて。
それは間違いなく、人間の下半身だった。

「「えええええ!?」」
「ほう…何の能力だ?」
「さあ。それは私の『頼み』を聞いて頂けたら話しますよ」

挑戦的に笑う女に、船長の口角も釣り上がる。

「面白ェ…。取り敢えず話してみろ」

女一人、見たところ武器も持たず、海賊船に乗り込んで(というか乗せられて)堂々としている。
相当自信があるのか、それとも虚勢か。
どっちにしろ、船長の興味を引いたのは確かだ。
出された紅茶を一口飲んで、ほう、と息をつくと、女はにっこり笑って話しだした。

「しばらく、この船に乗せてください」
「…は?」
「「「「「…はぁぁあああ!?」」」」」

俺達の叫びで船が揺れたんじゃなかろうか。というくらいの衝撃だった。
何がどうしたら若い女が海賊の船に乗りたいだなんて言い出すのか。
しかも『死の外科医』の船にだ。
俺が言うのも何だが、正気か、この女。

「…まさか、俺の船を足にするつもりだとか言わねェよな?」
「もちろん」

あくどい笑い方の船長にも怯む事なく、女はにこりと微笑んで見せる。


「足ではなく、宿にするつもりですから」

もしかして頭おかしいんじゃないか、と思ったのは、仕方ない事だと思う。




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